あなたにとって身近な方が亡くなり、相続が開始したら、「相続手続」をしなければいけません。この相続手続は何種類にも及び、相続税申告、準確定申告、未支給年金手続、預貯金口座の名義変更手続、不動産の名義変更手続(相続登記)など、数えだしたらキリがないくらいです。
一説によると、相続手続としてカウントできるものは、合計100種類以上もあるといわれています。
そしてこの相続手続を専門に扱うプロが存在します。
税理士や弁護士、司法書士のような国家資格を有する者で、「相続」に特化して仕事をしている専門家のことです。
では、相続手続は、専門家に頼むことなく、自分自身で進めることができるのでしょうか。
本記事では、「相続手続、自分でできるか診断」と題して、これについて検討していきます。
検討の仕方として、「専門家に相談するべき場面」をご紹介します。
以下の場面に該当するのなら、専門家への相談を検討してください。専門家に相談することが、あなた自身の利益にもなるでしょう。
相続人間でトラブルになりそうな場面は専門家に相談が必要
相続人、すなわち遺産相続を受ける側の間で紛争が生じる可能性があるのであれば、手続は専門家に任せるのが無難です(既に相続人の間でトラブルになっている場面も、もちろん同様です)。
相続人が複数いるケースでは、各相続人の押印(手続によっては実印)がなければ手続が進められないことが一般的です。
ですので、紛争性のある相続案件では、この印鑑を揃えることも一苦労……。
特定の相続人が印鑑を集めてまわろうにも、他の相続人が応じないことも十分考えられるのです。
印鑑が集められなければ相続手続きが進めらなくなってしまいます。
そこで、第三者である司法書士等の専門家に委託することが必要となります。
第三者である専門家が関与している場合は、トラブルが訴訟の段階までいっていない限り、印鑑を集めるハードルは相当程度低くなります。
たとえば仲の悪い兄弟なら、兄が弟に「この書類に押印してくれ」と言っても弟が応じないことがあるものの、「第三者の専門家」がいれば、専門家からの押印要請なら、すぐに応じてもらえることが多々あるのです。
「第三者の専門家」の存在が、印鑑をもらうのを容易にさせるのです。
また、平成28年12月19日に最高裁判所大法廷の決定により、なるべく早く相続人全員の印鑑を揃えるこが重要となりました。
共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。(最大決平成28年12月19日)
なぜなら、この決定において、以前までは遺産分割協議の対象ではないとされていた預金債権(預貯金)が、遺産分割協議の対象になるとされたのです。
以前までは、預貯金については遺産分割協議が終わっていなくても、相続人のうちの一人が自らの法定相続分のみの払戻を受けることは理論上可能でした。
金融機関の窓口で、実際にそのような対応を受けていた方もいらっしゃたはずです。
しかしながら平成28年12月19日の最高裁判所大法廷の決定により、その理論的根拠が失われました。
預金も遺産分割協議の対象なのだから、「協議が終わってからでなければ(つまり相続人間の実印による押印が揃っていなければ)払戻しには応じられない」との主張がなされることになるのです。
相続税申告の納税資金や、葬儀費用の清算など、相続人にとってはなるべく早くお金が必要になることだってあるでしょう。専門家に相談し、スムーズに相続手続を進めるべきです。
ですので、相続人の間で遺産相続に関してのトラブルがあるのであれば、専門家に委託して印鑑を押してもらえるようにするのがおすすめですね。
もちろん、相続人の間で揉め事がなく、円滑にコミュニケーションができるのであれば、ご自身で手続きされても問題ないでしょう。
相続税の対象になる場面も専門家への相談が必要
相続税の対象になる場面も、専門家への相談を検討するべきです。
平成27年1月1日から、相続税の基礎控除額について変更があり、相続税の課税対象者が増えました。それ以前であれば遺産が「5000万円+相続人一人あたり1000万円」に満たない場合は非課税でしたが、平成27年からは「3000万円+相続人一人あたり600万円」に満たない限りは相続税の問題が生じます。これまで相続税の対象にはならかった人でも、今では相続税申告の必要性が生じているのが現状なのです。
相続税の申告は、自分自身でされる方もいます。
相続関係が単純であったり、遺産が現金しかないような場面において、税理士への報酬を削減するために自分で申告をするのです。
ですが、次の理由から、相続税のプロである税理士に相談すべきです。
専門家でなければ、相続税が減額される「特例」の存在を見落とす可能性がある。
→特例を適用すれば相続税がゼロになるような場面でも、それを知らずに申告をして納税してしまうことがあります。結果として、専門家である税理士に依頼し、税理士に支払う報酬の方が安くすむことはまったく珍しくありません。
相続税は税務調査の対象になりやすい
→相続税の申告をすると、3人に1人か4人に1人の割合で、税務署から調査がなされます。申告書を見て税理士の印鑑がなければ(つまり専門家が関与せずに自分で申告をしていれば)、税務署としては「御しやすい相手」と判断し、余計に税務調査の対象になることだって現実には考えられます。
このように、相続税の対象になるのであれば、専門家に依頼し、適切に処理すべきでしょう。専門家に頼まずに「高くつく」場面は、よく見られます。(参考:相続税を払わないとバレる?どうなる?~無視した場合のペナルティ~)
その他の専門家に相談するべき場面
専門家に相談するべき場面はまだあります。
トラブルになっていなくとも、相続税が関係ない相続であっても、専門家の力を借りた方がよい場面があるのです。たとえば、次のような場面です。
1、相続人が第三順位の者である場面
→相続人が被相続人の兄弟姉妹である場面も、専門家への相談を検討した方がよいでしょう。第三順位の者が相続人であるなら、その相続関係を証明するために取得しなければいけない戸籍が複雑になります。第一順位や第二順位の相続人がいないことまで戸籍で証明しなければいけず、相続手続のはじめに行う「相続人の確定作業」の段階でつまづくことがあるのです。
2、「数字相続」の場面
→数字相続とは、連続して相続が発生する場面であり、第一相続の各種手続が終わらない段階で、第一相続における相続人が死亡し、その者を被相続人とする第二相続が開始する場面です。第一相続と第二相続が連続して発生することで、相続人の数が増え、相続関係は複雑になります。法務局で行う相続登記や金融機関での預貯金口座の名義変更手続の進め方も、通常の場面と異なりますので注意しましょう。
3、相続人の一部が海外に住んでいる場面
→多くの相続手続では、相続人の「実印」が必要になります。しかしながら海外在住の相続人がいた場合は、日本の役所における実印登録がなく、通常の仕方での相続手続が困難になります。この場面においては、いわゆる「サイン証明」というものを領事館で取得し、これに基づいて相続手続を進めていかなければいけません。
まとめ
このように、相続手続を専門家に相談した方がよい場面はたくさんあります。
まとめますと・・・・
- 相続人の間でトラブルがある場合、連絡が取りづらい場合は印鑑を取り寄せるのが難しいので第三者の専門家に依頼する
- 相続税がかかるケースでは正しく申告するためにも専門家に依頼する
- 相続人が第三順位の者である場面、「数字相続」の場面、相続人の一部が海外に住んでいる場面なども専門家に依頼するのがおすすめ
トラブルがある場面、相続税の場面、相続関係が複雑であったり相続人が海外在住である場面など、自分自身で手続をするのではなく、専門家に依頼した方がスムーズに手続を進めることが可能です。
ご自身で相続手続きがある程度できるという自信があるのであれば良いのですが、トラブル回避のため、相続税申告漏れが生じないためにも、まずは専門家の無料相談を受けることがおすすめですよ。
時間を無駄にしないためにも、相続の「プロ」に相談してみるとよいでしょう。
この記事を書いた人:碓井孝介(司法書士)
平成相続相談室(札幌)
運営:司法書士平成事務所・行政書士平成事務所
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