生前贈与の前にやるべきこと、それはまず相続財産の概算を知ることです。
平成27年の税制改正により相続税の基礎控除が縮小されて以来、相続対策としての生前贈与が流行しています。確実な節税ができるからです。
しかしそもそも自分には税率何パーセントの相続税がかかるのかご存知でしょうか?これを知らずに生前贈与をすることはゴール地点を知らずに走り出しているようなものです。
そこで今回は、生前贈与についての考え方を述べた後に、誰でもできる大まかな相続財産額の把握方法について解説します。
ぜひご自身の相続財産額の把握に活用して下さい。
どうして相続財産の把握が必要か?
1年間に110万円までは贈与を受けても贈与税はかからないため、毎年110万円贈与すると必ず相続税の節税にはなりますが、特に財産が多い方など110万円の贈与だけでは焼け石に水という場合もあります。
そのような場合、贈与税をいくらかでもを払って生前贈与をした方が、トータルとして大きく節税できることがほとんどです。
ところが、将来自ら支払う相続税の税率を知らなければ、いくらまで贈与すべきかわからないこととなります。当然ながら相続税の税率より低い贈与税率の範囲内で贈与すべきですよね。
また、相続財産額を知ることは、いざ相続が発生した場合の相続税納付へ備える期間を長くもてることを可能にしてくれます。相続税は相続開始から10ヵ月以内に現金納付が原則です。生前のうちに不要な不動産を現金化するなど資産の組み替えも可能かもしれません。
前置きが長くなりましたが、それほど相続財産額を大まかでも把握することが生前贈与、ひいては将来の相続税納付にも重要なのです。
相続財産総額を概算してみよう
では実際に相続財産の概算を計算してみましょう。以下に財産の種類別に評価額の概算の出し方を記載しております。それぞれで出した金額の総額が相続財産総額となります。実際に相続が発生した場合はより細かな方法で評価額の計算をしますが、ここでは概算を知るということが大切です。簡便な方法ですから一度試算して相続対策に役立ててください。
預貯金
金額の出し方は言うまでもなく預金残高の総額ですが、ポイントは漏れなく把握できるかどうかで試算の精度に差が出ることです。特に子どもが親の相続財産を試算しようとする場合には総額の把握が困難な場合もあろうかと思います。試算の必要性を家族で話し合い、なるべく正しい総額の把握に努めましょう。
上場株式等
一般的な上場株式の場合、銘柄と持株数さえ分かれば株価(単価)はネットなどで容易に探せます。株価×株数が相続財産額となります。
投資信託や外国債などは算出が難しくなりますが、証券会社から郵送されてくる取引報告書に、保有している金融商品のその月における時価が記載されています。それがそのまま相続財産額として試算段階では使えますので一度確認してみましょう。
土地
土地の評価は正確に計算しようとすれば専門家でない限り困難です。(専門家でも難しいのですから)
そこで市役所から送られてくる固定資産税の課税明細を上手く使いましょう。課税明細とは、固定資産税の納付書と同綴となっており土地の筆ごとに評価額や課税標準などが細かい文字で記載されている明細表のようなものです。
これのうち「評価額」を使います。
この「評価額」を1.14倍すれば相続財産額に近い金額を算出することができます。
なぜ1.14倍かといえば、土地の評価は正しくは路線価を用いて計算します。この路線価は公示価格の8割とされています。一方固定資産税の評価額は公示価格の7割とされています。よって8÷7により1.14となりますので1.14倍することで路線価での評価額に近づけることができることとなります。
建物
こちらも土地の場合と同様に固定資産税の課税明細のうち「評価額」を使います。
ただし土地の場合のように1.14倍はしません。評価額そのものが相続財産額となります。
ただし、その建物を他人に貸している場合はその評価額を0.7倍した金額が評価額となります。
生命保険金
被相続人が死亡した場合に誰にいくらの死亡保険金が入るか、特に相続人等がこれ知ることはなかなか困難ことかもしれません。
ただし、「500万円×相続人の数」を超える保険金については相続税がかかります。可能であればぜひこの「超える保険金」も試算に含めてください。
ゴルフ・リゾート会員権
これらの会員権等は、昨今値段がどんどん下落し金額的なウェートが低くなりましたが、それでもまだよく登場する相続財産です。時価は会員権を売買している会社のサイトなどで相場が公表されており比較的簡単に調べることが可能です。時価×0.7が相続財産額となります。
法人経営者特有の財産
会社経営者に特有の財産として、今まで見てきた財産以外に経営する会社の株式やその会社への貸付金がある場合があります。これらもそう相続財産としてカウントしますので試算に含めていきます。
非上場株式
上場株式とは違い、非上場株式の評価はとても難しいです。
会社経営者であれば顧問税理士がおられる事が多いと思いますので算定を是非お願いしましょう。
どうしても無理な場合や顧問税理士がいない場合、会社の決算書の貸借対照表の「純資産の部」の合計金額に持株割合をかけて算出します。
ただし、この方法では実際の評価額と差額がある程度発生することは覚えておいてください。
貸付金
経営する会社にお金を貸付けている場合は、その貸付残高が相続財産となります。会社の決算書の「勘定科目内訳書」に借入金の明細書があります。そこに今回の試算の対象者のお名前がないか確認してください。
退職金
現役の経営者の相続財産を試算する場合には将来の退職金の金額の大小も相続税に大きく影響します。
生命保険金と同じく、「500万円×相続人の数」を超える部分が相続財産となります。将来いくら退職金を取るか概算でもいいので決定し、「超える部分」を試算に含めておいてください。
個人事業主特有の財産
一方、個人事業主の場合は事業に使っている資産のうち、まだ減価償却をしていない金額(未償却残高)が基本的には相続財産となります。青色申告書決算書の第三表に事業用資産の明細があります。そこの未償却残高の合計額を試算に含めましょう。
ただし、不動産所得の申告をされている方はその中に土地や建物があると思います。土地や建物は未償却残高ではなく、先述の方法によって金額を算定してください。
相続税の税率と効果的な生前贈与
今まで財産総額の試算をしてきましたが、最後の仕上げとして相続税の税率を知ることが大切です。方法は以下の通りです。財産の総額から相続税率を知ってはじめて効果的な贈与のスタートです。(相続税と贈与税の税率表は下に載せています)
- 今までの財産金額を合計する
- 借入金などの負債をマイナスする。
- 基礎控除(3000万円+600万円×相続人の数)をマイナスする
- ③までの残額を法定相続分で分ける
- 相続税の速算表にあてはめて相続人がそれぞれどの税率に区分されるか確認する
相続税 | 贈与税 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
基礎 控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 | 一人一年間110万円 | ||||
税額 計算 | 取得金額(基礎控除後) | 税率 | 控除額 | 取得金額(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― | 200万円以下 | 10% | ― | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 | 300万円以下 (400万円以下) | 15% | 10万円 (10万円) |
|
5,000万円以下 | 20% | 200万円 | 400万円以下 (600万円以下) | 20% | 25万円 (30万円) |
|
1億円以下 | 30% | 700万円 | 600万円以下 (1,000万円以下) | 30% | 65万円 (90万円) |
|
2億円以下 | 40% | 1,700万円 | 1,000万円以下 (1,500万円以下) | 40% | 125万円 (190万円) |
|
3億円以下 | 45% | 2,700万円 | 1,500万円以下 (3,000万円以下) | 45% | 175万円 (265万円) |
|
6億円以下 | 50% | 4,200万円 | 3,000万円以下 (4,500万円以下) | 50% | 250万円 (415万円) |
|
6億円超 | 55% | 7,200万円 | 3,000万円超 4,500万円超) | 55% | 400万円 (640万円) |
相続税率より低い贈与税率の範囲内で贈与すればトータルとしての相続税対策が可能です。相続財産の把握は概算といえど手間暇かかりますが、110万円を超える贈与をする場合には、重要なことですのでのでぜひチャレンジしてみてください。
まとめ~相続財産額を把握することが相続税対策のスタート~
以上、相続財産額の概算を計算する方法について解説させていただきました。
いかがでしたでしょうか。
相続財産額がわからなければ、将来自分にどの程度相続税がかかるのか把握ができません。それがわからずに相続税対策を始めることは、効率が悪いだけではなく逆に損をしてしまう可能性も高いです。
相続財産額を把握することは「相続税対策を考えるスタート」なのです。
今回の記事が、皆さまの相続税対策の第一歩となることを願っております。
最後まで読んでいただきありがとうございました。