二世帯住宅や老人ホームの場合でも小規模宅地等の特例は適用できます

「小規模宅地等の特例は、二世帯住宅では適用できないの?」

「老人ホームに入居している場合はどう?」

こんな質問をよく受けます。

平成27年から施行された改正相続税法により、相続税が課税される人は、100人中4人程度(約4%)から、改正後の平成27年は100人中8人程度(約8%)と倍増しました。

この数字は全国平均なので、土地の値段の高い東京都内や都心部、地方の主要都市ではもっと増え、特に東京都内は20%を超えてくるものと予想されます。つまり、5人に1人は相続税を納める時代になったのです。

この記事では、このように今後負担が増える相続税を軽減する対策として、相続財産の評価を下げることができる「小規模宅地等の特例」について紹介し、「二世帯住宅の場合」と「老人ホームに入居している場合」に特例を適用するポイントを解説していきます。

ぜひ参考にしてください。

小規模宅地の特例とは~土地の評価を80%減額~

「小規模宅地等の特例」とは、被相続人(亡くなった方)が所有しており、自宅として使用していた建物の敷地(土地)や事業を営むために使用していた土地で、一定の要件をクリアした場合は、その土地の評価が80%減額される制度です。

つまり土地の評価が本来の20%に低減されるのです。その分だけ相続税が減るわけですから、素晴らしい特例ですね。

この小規模宅地等の特例は自宅や事業に使用していた土地だけではなく、他人に賃貸しているアパートやマンションにも適用することができます。(なお、この場合は80%の評価減ではなく50%の評価減となります)

小規模宅地等の特例についての詳細は、国税庁HPを参照下さい。

二世帯住宅で小規模宅地等の特例が適用可能な場合

自宅を所有している多くの人が利用できる小規模宅地等の特例ですが、二世帯住宅の場合でも適用可能な場合があります。

例えば、1階には親が居住し、2階に子どもが居住。1階と2階にそれぞれ玄関が設けられており、室内での行き来ができない完全に別々の生活をおくっている場合には、小規模宅地等の特例を使うことが可能です。

ただし区分所有の場合には適用不可能

区分所有とは、建物の区分所有等に関する法律によると、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分はこの法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」となっています。

法律用語は難しいですね。簡単にいうと、分譲マンションの様に建物全体としては一つの建物だけど、所有権としての権利上はその建物をいくつかに分割区分してある建物のことです。

区分所有となっている建物は、せっかくの特例が利用できないのです。まったく同じ造りの建物であっても、区分所有となっているか否かで、評価方法が変わってしまうのは変ですが、現状の税法では、その様に決まっています。

該当する方からは、『そんなこと言わず、使える方法は無いの?』という声が聞こえてきそうですね。

その答えは、『手間と費用をかければ有ります』です。

区分所有となっている二世帯住宅に小規模宅地等の特例を適用する方法

次の方法により、  区分所有となっている二世帯住宅も小規模宅地等の特例が適用可能となりますので、相続税が軽減される金額と、手間・費用を比較してご判断下さい。

方法① 建物の持ち分を「所有する面積に応じた共有持分」にする

区分所有となっている二世帯住宅を、面積に応じた共有持分に変更することで「小規模宅地等の特例」が利用可能となります。

例えば、

  • 1階の所有者:父(面積80㎡)
  • 2階の所有者:長男(面積70㎡)

合計面積150㎡の区分所有の建物を、贈与や売買などにより、次の様に変更登記することで「小規模宅地等の特例」の適用対象とすることができます。

  • 1階の所有者:父15分の8、長男15分の7
  • 2階の所有者:父15分の8、長男15分の7

方法② 建物の「合併登記」を行う

区分所有となっている二世帯住宅を「合併登記」することで、「小規模宅地等の特例」が利用可能となります。

なお、合併登記は建物の構造上、建物内で行き来ができる必要があり、場合によっては合併登記のために壁を外したり、内階段を作ったりする必要もあります。

方法①、②いずれにしても手間と費用がかかるので、節税効果と比較してご判断ください。

老人ホームに入居していても小規模宅地等の特例が適用可能な場合

被相続人(亡くなった方)が老人ホーム等の施設に入居していて、自宅が空き家となっている場合にも、次の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」を利用することが可能です。

適用要件

・被相続人が、相続の開始の直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと
・被相続人が、老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等に入居又は入所していたこと

より詳細に知りたい方は国税庁HPをご参照ください。

最後に~小規模宅地等の特例は、事前に十分の確認を~

以上、小規模宅地等の特例の適用の判断が難しい「二世帯住宅の場合」と「老人ホームに入居している場合」について解説させていただきました。

あらためてポイントをまとめると

  • 小規模宅地等の特例が適用できると土地の評価が大幅減
  • 適用できれば結果として相続税を大きく減らすことができる
  • 二世帯住宅でも小規模宅地等の特例が適用できる場合がある
  • 区分所有となっている二世帯住宅では適用できない
  • 区分所有登記を名義変更することで適用対象にできるが、高くついてしまう場合も
  • 老人ホームに入居していても条件を満たせば適用対象となる

いかがでしたでしょうか。

「小規模宅地等の特例」は適用できれば相続税の節税効果がとても大きいです。逆にいえば「適用できると思っていたらできなかった」「諦めていたのに実は適用できたらしい」など、思い違いで大きな損につながります。

また、特例を適用するために名義変更等に多くの費用をかけたにもかかわらず、節税効果が思ったより少なくて、結果として損をしてしまう可能性もあります。

「小規模宅地等の特例」を利用する場合は、必ず専門の税理士に十分な確認をしたうえで、相続税の申告を行うことが重要です。

以上、皆さまにとって少しでもお役に立てれば幸いです。