保険会社の株式会社化【競争が激化する業界事情】

保険という金融商品は他のたとえば株式や外国為替と異なり、大勢の人が少しずつお金を出し合って自分も含めた誰かの病気やケガや死亡に備えるという性質を持っているため公共性の高い商品であると言えます。

相互会社とは:契約者同士が支えあう概念

公共性が高いということは自社の利益よりもどちらかと言えば公益に重きを置くべきものなので、それに伴って規制される法律や会社形態も異なってきます。保険会社には相互会社という保険業界独自の会社形態があり、長らく主要生命保険会社はほとんどがこの相互会社という形態を採っていました。まずこの相互会社とはどういった性格の会社形態なのでしょうか。

相互会社とは保険業法に基づく会社形態で、保険会社以外には設立は不可能です。相互会社とは契約者同士が契約者同士を支えあうという概念に基づいた相互保険を扱い、相互保険の契約者=社員となる法人格です。

ここでいう社員とは会社の構成員という意味であり、株式会社の株主に近いもので実際に営業や内務を行っている社員という概念とは少し異なります。ただあくまで株式会社とは異なり営利を目的としない非営利会社に分類されます。

余剰金が発生すれば契約者のみに配当という形で利益を還元するため、契約者本位の組織形態であると言えるでしょう。しかしながら最近では契約者にメリットの多いこの相互会社という会社形態を変え、第一生命など株式会社化を行っている保険会社もいくつか存在します。相互会社のデメリットとして、株主総会にあたる総代会が挙げられます。

相互会社のデメリット:企業統治の面が脆弱

かつての村上ファンドよろしく「物言う株主」が増加していることから、株主総会は従前の形骸化したものから、活発な議論の場になっています。つまり株主総会とは株主にとっても経営陣にとっても経営に関する有意義な機会であるのです。それに対し総代会においては経営陣の意向を反映した人物が総代になることが多く、総代会も形だけの形式的なものになってしまいます。

こういったことから相互会社は企業統治の面で脆弱であり、そのことが保険金不払い問題で露呈されてしまいました。また株式会社は資金調達の面でいえば株式発行により容易に出来るのに対し、相互会社は利子返済義務のある基金を機関投資家より募る必要があります。また相互会社においては相互会社同士でしか合併が出来ないため、M&Aがしにくく、他企業との連携や海外進出がしにくいという難点もあるのです。

参考:保険金不払い問題について【加入できたのに、何故支払われないの?】

第3分野の保険の出現:業界の競争が激化

こういったデメリットもあることに加え、第3分野の生損保相互参入が可能になったことなど業界内の競争が激化する中で、資金調達の優位性と経営戦略の自由度を増すために2002年のT&Dホールディングス(大同生命・太陽生命)の株式会社化を皮切りに三井生命等の保険会社が株式会社化していきましたが、2010年の当時業界2位の第一生命の株式会社化は業界に非常に大きなインパクトを与えました。

相互会社においては有配当保険が中心となっていますが、株式会社化することにより無配当保険の販売が可能となり、これにより保険料の低廉化による競争が激化することになると思います。それは相次いで参入する保険料の低廉なネット生保との競争となり、保険業界はバブル崩壊期のような淘汰が進むかもしれません。

株式会社化のメリット:経営の透明性

また株式会社化をするメリットとして、経営状況を市場に公開しなければならないということが挙げられます。株主や契約者にとってはディスクロージャーによる経営内容を監視することが出来るというメリットと、保険会社側にとっては常に経営の内容を世間にさらすことにより、経営の風通しと透明性を確保できるというメリットが期待できます。

ただしどういった会社形態を採ろうとも、あくまで保険会社は保険による相互扶助を目的とした会社であることには変わりありません。相互会社から株式会社へ、非営利会社から営利会社へ移行しようとも、保険の目的は忘れてはならないと思います。

           

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