相続税の税務調査~税務署長はもう一人の相続人!!~

「税務署長がもう一人の相続人!?」と思った方は多いのではないでしょうか?

そうなのです。皆さんが提出した相続税の申告書を見て「俺の取り分は少なくないか?」と目を光らせている人物こそもう一人の相続人、税務署長です。この相続人、なかなか強欲かつ強権で自分の取り分が少ない可能性があると部下を使って自宅にやってきます。

これが税務調査です。

いざ税務調査が実施されると高い確率で財産の申告漏れが指摘され、多額の相続税が追徴されています。税務調査を甘く見ると痛い目にあいますよ!

そこでこの記事では、調査での申告漏れの定番である「名義預金」を主な題材として、相続税の税務調査について税理士としての立場から解説させていただきます。

税務調査の現実~調査に当たれば8割の確率で相続税が追徴~

国税庁のホームページには税務調査の統計が公表されています。平成27年度の統計を見てみましょう。

  • 調査実施件数           11,935件(申告件数の3割弱)
  • 財産漏れ件数       9,761件(81.8%)
  • 一件あたり申告漏れ金額  2,517万円
  • 一件あたり追加税額        489万円

これが相続税の税務調査の現実です。

通常、調査の実施については事前に納税者または税理士に連絡があります。これが申告件数全体の3割弱です。

もし、この3割弱に当たってしまったら、連絡後に税務調査が自宅で実施され、約8割の確率で何かしらの相続財産の申告漏れを指摘され、平均489万円もの税金が追徴されています。税務調査に当たると8割の確率で申告漏れを指摘されるのです。野球で言うと打率8割、すごくないですか?

なお、追加税額の489万円にはさらに罰金と利息がつきますので、実際はこれの1.2倍くらいになると予想できます。

税務調査先はどうやって決まるのか?

相続税の申告書を提出したからといって、すぐに税務調査の連絡があることはありません。

理由は2つ。1つは税務署長も強欲とはいえ、人の子です。遺族への配慮から一周忌が終わるころまではじっとしています。そしてもう1つは被相続人(亡くなった方)の財産調査を行い、申告された相続税が正しいかチェックする期間が必要だからです。

この財産調査こそが先ほどの打率8割を可能にしています。

税務職員には「質問検査権」という権限があり、銀行に行けば預金の情報は取り放題です。被相続人の家族の預金の動きまでが丸裸であり、わざと被相続人の財産を減らしていないか、配偶者・子ども・孫の預金の動きなども確認します。

また、過去の所得税申告と比較し、相続税申告書に財産として計上されている預貯金や有価証券が少なくないかを確認します。以上の調査から主に次の場合には税務調査の対象となることが多くなります。

このような方は税務調査の対象となる確率が高いです!
  • 申告された預貯金や有価証券の合計額が、過去の所得から想定した金額と比較して少ない場合。
  • 銀行などの情報から、妻や子ども名義の預金が多い場合。(名義預金といいます)

税務調査で指摘を受けないために~打率8割の相手にも負けない!~

既に書きましたが、税務調査に当たってしまえば8割の確率で財産の申告漏れが指摘され、相続税を追加で支払わなければなりません(平均489万円)。さらに「申告漏れ」に対して罰則が課されますので支払う金額はより多額になります。

では、税務調査に当たっても、指摘を受けないためにできることはなんでしょうか?以下で解説していきます。

①預金の名義だけ変えてもダメ~名義預金の指摘が圧倒的に多い~

相続税の税務調査では申告漏れの確率が8割と書きましたが、漏れている財産の中で圧倒的に多いのが「名義預金」といわれるものです。

名義預金とは、預金の名義こそは配偶者や子ども・孫などになっているものの、実質的には被相続人(亡くなった方)の財産とみなされる預金をいいます。

過去の相続事案ですが、被相続人の奥様で専業主婦にもかかわらず、預貯金が数千万円という方がいました。申告書作成時には教えていただけず、税務調査で発覚してしまいました。

亡くなった方が生前に自分の財産を減らすため、奥様名義の口座に預金を移したのです。ただ、預金は奥様自身が作った預金ではなく被相続人が稼いで作ったものです。名義が奥様になっているだけですから実質的には被相続人の預金として相続財産の計上漏れを指摘されました。

つまり「実際は奥さんの金じゃないだろ!!これも被相続人の財産だろ!!」と指摘されたのです。

相続税法上、財産の所有者は名義では判断しません。名義だけを変えて安心していると後から大変なことになりますよ。名義預金と判断されないためには以下のポイントをチェックしてください。

名義預金(贈与したつもり)とならないたいためのチェックポイント
  1. 子どもや孫名義の預金管理(通帳やカードの管理)は子どもや孫自身が行っているか
  2. 預金の届出印は、贈与した人と同じ印鑑を使用していないか
  3. 独立した息子や嫁いだ娘の預金の届出住所が実家のままになっていないか
  4. 必要に応じ贈与税の申告書は作成しているか
  5. 贈与契約書を作成しているか
過去に現金を生前贈与している方も注意!
「贈与したつもり」ではいけません。「贈与」とはあげた側の「あげます」と、もらう側の「はい、いただきます」の両方が必要な契約です。この「はい、いただきます」が不十分であるため、したつもりの贈与が否定されるケースがよくあります。結果、節税も叶わず多額の相続税を支払う羽目となります。贈与の度に贈与契約書を作成しましょう。

②税理士に要求された資料は提出する

相続税の申告は税理士に依頼する場合が多いと思いますので、ここではその前提でのお話です。

相続人(財産を引き継ぐ方)としては、自分の名義になっている預金は自分の預金という意識がありますから、税理士が「家族名義の預金も確認させてほしい」というと、「なぜそこまで確認するの」と反発することが多いです。

税理士もお客さん相手に拒否されればそれ以上は要求できません。ただ、家族名義の預金は先ほど述べたように税務調査で必ず確認されます。確認したところで何も問題なければそれでいいのですが、税務調査でいきなり指摘されて慌てるより事前に税理士に確認してもらう方が後々自分を守ることになると感じています。

名義預金以外にも税務調査を想定して何か胸にひっかかることなどは事前に税理士に相談しておきましょう。

③「税務署長」からは逃げられないと覚悟する

相続が開始してから10ヶ月以内に申告が必要ですが、3ヶ月くらいすれば「相続税に関するお尋ね」という封書が来たり、頼んでもいないのに相続税の申告書が送られたりします。

税務署は被相続人(亡くなった方)の過去の確定申告の資料などから相続税がかかる可能性のある人にこうして書類を送るのです。ある程度の財産状況は国も把握しておりますので、これらの書類が来るということは相続税の申告が必要な可能性が高いことを覚悟してください。

逃げても後々高くつくだけです。そして「税務署長」というもう一人の相続人を意識して相続税の申告にあたれば、そう大ケガすることありません。

参考:相続税の罰則についてまとめています
>>「相続税を払わないとバレる?どうなる?~相続税のペナルティ~」

税務調査には専門の税理士に必ず立ち会いを依頼すること

相続税の申告を税理士に依頼せず自分の力で申告した結果、税務調査の対象となった場合はピンチです。

そもそも、相続税の申告を税理士に依頼せずに自分で行うと、申告書の「税理士押印欄」が空白となるため、税務署の目に留まりやすく税務調査の対象にもなりやすいのです。また、専門家に依頼せずに申告しているため、金額に誤りがある可能性も高くなります。

税務調査の対象になる確率も考えると、相続税の申告は専門の税理士に依頼する方が賢明なのです。

もし、相続税の申告を自分で行い結果として税務調査に当たった場合、税務調査に対応するためには相続税専門税理士に立ち会いを依頼することが必須です。

相続税の税務調査は、通常二人一組のプロの調査官が被相続人(亡くなった人)の自宅に来て行われますが、素人が専門外のことを専門家と話したところで勝てるはずがありません。交渉にならず、根こそぎいかれたり家の中も隅々まで見られるのがオチです。

逆に、税理士が税務調査に立ち会う場合は、税理士の税務調査への対応の仕方により相続税の金額が大きく変わります。申告の修正が必要になったとしても、追加で支払わなければならない税金の金額は、税理士の説明力や交渉力次第と言えます。

これから申告をされる方は、相続専門の税理士に依頼すること。そして既に自分で相続税の申告をした結果、税務調査の対象となってしまった方は、今すぐにでも「税務調査の経験を多く持つ相続専門税理士」に立ち会いの依頼をすることが重要です。

最後に~相手を知っておくことが大切~

相続税の税務調査は会社の税務調査と違い税務署側としても一発勝負です。

だからこそ銀行にも行くし家にも来るし、漏れている財産が無いか必死に探します。特に「名義預金」については必ずと言っていいほどのチェック項目です。

甘く見ると必ず痛い目に会うのが税務調査。自分で安易に判断することなく、専門の税理士に事前に相談しておくことが重要です。

最後に、強欲なもう一人の相続人「税務署長」の気質をお教えしましょう。非協力的な態度には本能に火が付きますが、「どうぞ、どうぞなんでも見てください。全部見てください。」と言われるのが苦手です。税務調査の当日の心得として覚えておかれるといいかもしれませんよ。