海上保険について【現代の保険、銀行、金融業界の礎となる】

今や日本人の生命保険の世帯加入率は9割を超え、世界に冠たる「保険大国」であると言ってもよいでしょう。保険は今ではありふれたものではありますが、その保険の起源は海上保険から始まったと言われています。海上保険とはどういった保険なのでしょうか。

 海上保険とは:航海中の貨物や船舶を保障

海上保険の保険商品としては大きく分けて貨物保険と船舶保険に分かれます。貨物保険はその名の通り外航輸出入貨物にかけられる保険で、座礁や転覆、他の船舶との接触や衝突、火災・爆発、海賊行為や盗難など貨物運送中に想定されるリスク、いわゆるマリンリスクの際に貨物への損害が発生した場合は一定の貿易価格に希望利益を加えた保険金額を支払うのが一般的です。

それに対し船舶保険とはこれもまた文字通り船舶にかけられる保険で、一定の保険期間中に船舶において航海中にその保険対象である船舶が沈没、座礁、火災、他船との衝突などのマリンリスクの際に保険金を支払うといった内容になっています。

想定されうるリスクをヘッジするために保険料をかけ、リスクが現実のものとなり損害を被った際に保険金を受け取るといったいわゆる一般的な保険と同じ保険の考え方となっていますが、では保険の起源である海上保険のおこりとは一体どのようなものだったのでしょうか。

 海上保険のおこり:自然の猛威や海賊のリスクに備える

保険とは元来ある一定期間内にその人が死ぬか否かというギャンブル的要素から始まったものとも言われていますが、本来の目的はみんなで少しずつお金を持ち寄って想定されるリスクに備えようとすることです。古バビロニアで栄えた古代の中東において都市国家間の交易がさかんだったころ、すでに海上保険の原型と言われる海上貸借の原型が完成していました。

当時の海上交易においては現在の航海技術ならいざ知らず、海難等の自然の猛威に加え、盗賊や海賊などの襲撃といったリスクもあり、無事に何事もなく航海を終える確率は今よりも格段に低かったことでしょう。その中でリスクをヘッジするための手段としての金銭消費貸借契約が海上賃借だったと言われています。

 海上貸借のしくみ:シンプルに保険と金銭消費貸借を兼ねていた

仕組みとしては船主もしくは荷主が船舶もしくは積荷を担保として資金の借り入れを行い、船舶もしくは積荷が無事で安全に目的地へ到着できた場合に、一定の利息を付けて借入金を返済するというもので、もし航海が無事に完了しなかった場合は、借入金元本および利息の返済義務を免れるといった簡易的でシンプルですが、保険と金銭消費貸借を兼ねたものとなっていました。

時を経て十字軍遠征の時代まで海上貸借は行われていましたが、当時の利息は2~3割と高利であったためキリスト教の教義に反するとし海上貸借は禁止され姿を消しました。しかし危険負担の考えだけはその後ルネッサンス期に完成した海上保険に受け継がれます。

 海上貸借の二つの機能:銀行、保険、金融業界の礎

実はこの海上貸借には資金提供機能と危険負担機能の二つの機能を有しており、危険負担機能が発展したのちに保険業となり、資金提供機能はのちに金融業のおおもとの考え方となるなど、現代の銀行・保険等含めた金融業界の礎となるものでした。スペイン・オランダ・イギリスの隆盛とともに世界的な植民地支配が主流となる重商主義、絶対王政下のヨーロッパ諸国において海上交易はかつてないほど発展し、それに伴い海上リスクも巨大なものになっていきました。

海上貸借は海上保険へと名前や制度を変え、さらに海からやがて陸へ上がり、火災保険(参考:火災保険料取りすぎ問題)や自動車保険等の現代の損害保険へそのリスクヘッジの考え方は脈々と受け継がれています。今では航海技術は飛躍的に向上し、また海上の治安も格段に良くなっていますが、いまだに海上保険は海運や海上交易を支えるリスクヘッジの手段のひとつとして重要な役割を担っています。

           

お役に立てましたらシェアお願いいたしますm(__)m