2017年に入って、ロシアはようやくマイナス成長から脱し、わずかながらもプラス成長へと向かうようになっています。
2017年全体では、ロシアのGDP成長率は、それほど高くはありませんが、1.3~1.8%になると予測されています。
クリミア半島併合をきっかけに始まったロシアの経済危機の際に、一挙に17%にまで上昇した政策金利も、6月16日には9%へと引き下げられることになりました。
一方、ロシア経済に大きな影響を与える原油価格は、ニューヨーク原油先物(WTI)が7月10日に1バレル=44ドル台前半と、国家歳入のほぼ半分を石油関連に依存するロシアとしては歓迎できる価格水準にはなっていません。
当然ながら、株式市場はこうした国内外の経済情勢に大きな影響を受けることになります。
今回は、ロシア株式の最近の動向と日本で取引できるロシア企業株の投資対象としての妥当性についてみていくことにしましょう。
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ロシア株式市場と株価指数
ロシアの代表的な株価指数には、モスクワ証券取引所のMICEX(Moscow Interbank Currency Exchange)指数とRTS(Russian Trading System)指数があります。
このモスクワ証券取引所は、2011年にモスクワ銀行間通貨取引所とロシア取引システムとが合併してできたものです。
MICEX指数は、かつてのモスクワ銀行間通貨取引所で算出されていた指数であり、モスクワ証券取引所に上場される銘柄の中で最も流動性の高い50銘柄から構成された時価総額加重平均指数です。
RTS指数は、かつてロシア取引システムで算出されていたもので、ドル建て表示した指数であり、MICEX指数の構成銘柄とまったく同じものから算出された時価総額加重平均指数です。
両指数を構成する銘柄の中でもとりわけ大きな比重を占めるのが、以下の5社です。
- ガスプロム(Gazprom)15.11%
- ルクオイル(Lukoil)12.61%
- スベルバンク(Sberbank)13.49%
- ロスネフチ(Rosneft)4.18%
- ノリリスクニッケル(Norilsk Nickel)4.93%
これらの5銘柄だけで50%を超えることになります。
MICEX指数とRTS指数の推移
そこで、2015年1月から2017年7月上旬までのMICEX指数とRTS指数の動きをみてみましょう(下図)。
図からわかるように、MICEX指数は2015年春ころから、そしてRTS指数は2016年に入ってから、少しずつ値を上げてきていましたが、2017年に入ると、両指数とも少し低下する方向へと動いています。
2017年5月の1カ月間だけについてみると(Moscow Exchange, Monthly Market Report May 2017より)、MICEX指数は前月比で5.8%下落し、ドル建て表示のRST指数も5.5%下落しています。
その期間中に変動率が大きかった銘柄をみてみると、下落率が大きかった順にガスプロム-12%、ノリリスクニッケル -9.7%、スベルバンク-5.6%、ロスネフチ-4.9%、ルクオイル-2.3%などとなっています。
一方、値上がりした銘柄もいくつかあり、スルグトネフチェガス(Surgutneftegaz、石油企業)が8.5%、ポリュスゴールド(Polyus Gold、世界最大級の産金企業)が 0.5%の上昇となっています。
また、同期間中の取引額上位の銘柄についてみると、スベルバンク19%、ガスプロム17%、ルクオイル7%、ノリリスクニッケル6%、トランスネフチ(Transneft)4%などとなっており、下落銘柄の比重がとりわけ高い構成になっていることで、両指数の低下も必然的に比較的大きなものにならざるを得ません。
2017年6月中旬、ロシア中央銀行(CBR)が政策金利を0.25%引き下げる一方で、米国FRBが政策金利を0.25%引き上げました。そのため、両国間の金利差が縮小し、世界的な原油価格低迷という要因も加わり、それ以降はドル高・ルーブル安が進むようになっています(下図)。その結果として、ドル建て表示のRTS指数がより大きく低下するようになっているのです。
こうして見ると、ロシアの株価指数が下落傾向にありますので、ロシア株式は投資対象としてはリスクが高く、あまりふさわしくないようにも思えます。
でも、そんな中でも値上がりしている銘柄はあります。
ですから、そうした株式を投資対象とすることはなしとは言えないでしょう。
現在、SBI証券が日本でロシア株式の取引ができる主な証券会社であり、日本で取引可能な銘柄は表のとおりです。
個々の銘柄の値動き――石油・天然ガス関連は低迷
では、MICEXとRTSの両指数を構成する代表的銘柄の中で、2014年から現在までの株価が顕著に上昇している銘柄についてみていくことにしますが、まずその前に、指数の中に占める比重が最も大きいガスプロムの値動きについてみておきましょう。
ガスプロム社は、天然ガス生産と供給で世界最大の企業であり、ロシア政府が株式の50%強を保有する、ロシア経済にとって最重要な企業です。
現在、同社は欧州に天然ガスを供給するためのパイプライン、Nord StreamとSouth Streamの建設プロジェクトを進めており、今後も欧州への天然ガス供給は増大することになります。
同社の株価の推移をみてみると、傾向的に上昇しているわけではなく、株価が非常に激しく上下動しており、2017年に入ってからは、値下がりする方向にあります(下図参照)。
したがって、ガスプロム社の株価は不安定であり、取引するにはリスクが高い銘柄と言え、今後の天然ガス価格の動向次第ではさらなる下落もあり得るかもしれません。
現在、世界の原油価格や天然ガス価格が低迷しているため、日本で取引できるロシアの石油関連銘柄ルクオイル(Lukoil)とロスネフチ(Rosneft)の株価も、2017年に入ってからは下落傾向にあります。
石油・天然ガス関連銘柄は、原油価格と天然ガス価格が上昇しない限り、株価の上昇は期待できず、投資するにはリスクが高いと言えるでしょう。
経済状況の改善とともに値上がりする銘柄も
一方、全体的に厳しい状況にあるロシア株の中でも、株価が上昇傾向をたどっているものもあります。
特に目立つのは、鉄鋼、電力、航空機製造、航空運輸などの銘柄です。
2017年に入ってから、ロシアでは少しずつ景気が回復してきており、建設や投資も上向き、天然ガスパイプライン敷設などの大型プロジェクトも進行していますので、鉄鋼関連銘柄が好調になっているようです。
景気が改善すれば、電力需要も増大しますので、電力銘柄も株価は上昇傾向にあります。その他、国際競争力に優れる航空機製造や航空運輸の銘柄も順調です。
だた、景気がよくなりつつあると言っても、人々の生活実態はなかなか回復しておらず、ロシア人の5人に1人が低賃金を不満に思い、国の経済状況を心配しています(2017年5月、All-Russia Public Opinion Study Centerが行った世論調査から)。
また、5月には4.1%にまで低下していたインフレ率も、6月には4.4%に上昇することになり、ロシアの経済状況はそう順調には回復しそうもありません。
そういう経済状況にあることで、ディクシーグループ(DIXY)などの小売業関連銘柄の値動きは芳しいものではありません。
特に好調なのは以下の鉄鋼、電力、航空関連などの銘柄
では、株価の値上がりが顕著な企業ですが、以下、その企業をその株価チャートとともにいくつか挙げておきましょう。
・マグニトゴルスク鉄鋼(MAGN、Magnitogorsk Iron & Steel Works)
同社は、Magnitogorsky Metallurgichesky Kombinat(MMK)の企業名称で事業展開しており、圧延鋼、丸鋼、冷延・熱延コイル、形鋼などを生産し、世界販売している鉄鋼メーカーです。
・ノボリペツク製鉄所(NLMK)。
同社は、ロシアの3大製鉄会社のひとつで、採鉱から製造までを行う垂直統合型企業です。鋼板、半製品、電磁鋼板、特殊鋼などの鉄鋼製品を生産しており、同社のロシア全体でのシェアは22%に及びます。主な顧客はロシア、北アメリカ、EUの企業です。
・VSMPOアヴィスマ(VSMO、Vsmpo-Avisma Corp)
同社は、インゴット、パイプ、シートなどを生産する金属半製品メーカーです。チタン、アルミ合金、ステンレス鋼、高度フェロチタンなどの半製品を製造しており、世界最大のチタンメーカーです。世界の航空機エンジン製造企業にも製品を供給しています。
・ロシア卸売電力(エネルロシア、ENRU、ENEL RUSSIA PJSC)
同社は、モスクワを拠点とし、ウラル、北コーカサス、中央ロシアの各地域で発電所を運営し、電力の供給を行っている電力会社です。
もう一つの電力銘柄、イルクーツクエネルゴ(IRGZ、Ilrkutskenergo PAO)は、2016年以降、株価は上昇していますが、価格変動が激しく、4月半ばからは少し下降気味に推移しています。ここで紹介するにはふさわしくない銘柄でしょう。
・アエロフロート・ロシア航空(AFLT、Aeroflot)
同社は、ロシア連邦のフラッグキャリア航空会社であり、ロシア経済開発貿易省の下部機関が50%強の株式を保有しています。周知のように、世界各地に航空路線を持っている世界有数の航空会社です。
・イルクート(IRKT、Irkut Corporation)
同社は、イルクーツクを拠点とする民間飛行機および軍用機の製造企業です。同社は1万4000人以上の従業員を抱え、SU 30MK多機能戦闘機やSU 27UBK軍事練習機、SU 30戦闘機、BE 200水陸両用ジェット機(ベリーエフ飛行艇)、イルクートMS 21旅客機などを製造しており、ロシアを代表する先進企業のひとつです。
・ボズラストニ銀行(ロシア復興銀行、VZRZ、Vozrozhdenie Bank PJSC)
銀行銘柄の中でも株価上昇が目立つので、この銘柄を最後に挙げることにします。
同行は民間商業銀行であり、法人・個人向けの銀行業務全般を行っています。貯蓄性口座、カード、法人・個人向けローンなどのサービスも提供しています。
以上が、ロシア株式の中で注目される銘柄のいくつかです。これらの銘柄は、2016年から後半にかけて、いくらかの上下変動はあったものの、ほぼ右上がりで値上がりを続けています。
為替差損が生じることも
値上がりを続ける銘柄も少なからずあるロシア株式ですが、忘れてはならないのが、ルーブルと円との為替レートの問題です。
株価がいくら上昇したとしても、対ルーブルの円相場が上昇してしまうと、日本円で投資元本を受け取るときに、利益が目減りしたり、元本割れになったりする可能性さえ出てきます。
反対に、ルーブルが円に対して値上がりすると、日本円で投資元本を受け取るときに、利益が増大することになります。株収益と為替差益の両方が手に入ることになります。
いずれにせよ、外国株に投資するときには、為替レートにも大いに気を配らなければなりません。。
また、取引時間も日本とは違ってきます。モスクワ証券取引所の取引時間は、日本時間の15時30分から翌日1時までとなっています。
インターネット取引はまた違った時間になっていますが、詳細な取引時間についてはSBI証券のホームページで確認されるのがいいでしょう。
まとめ
ロシアの代表的指数であるMICEX指数とRTS指数は低迷していますが、日本で取引できるロシアの上場銘柄の中には、株価が顕著に上昇しているものもあります。
鉄鋼、電力、航空機製造、航空運輸などの銘柄の中に、株価が好調なものが目立っており、今後も株価が上昇していく可能性はあるでしょう。
ロシア株に投資するときには、円対ルーブルの為替レートの動向に注意する必要があります。円高・ルーブル安に振れると、為替差損が生じることになるので注意が必要です。
2017年6月以降、円高・ルーブル安がいくらか進行しており、今後もしばらくは円安・ルーブル高の方向には向かいづらいかもしれません。ただ、大幅な円高・ルーブル安が進む可能性もあまりないように思われます。
ドルとルーブルの関係を見ると、金利引き上げに動く米国に対して、ロシアは利下げの方向に動いていますので、金利差の拡大が起こり、かつ原油価格が低迷するということで、今後もドル高・ルーブル安の圧力が強くなる可能性があります。ただ、ロシア経済が力強く回復するようになれば、ドル安・ルーブル高に傾く可能性がないわけではありません。
そして、カントリーリスクという問題もありますが、クリミア併合問題はあるものの、当面はそれほど大きく心配する必要はないのではないでしょうか。
各銘柄の株価は、ブルームバーグのマーケット情報やモスクワ証券取引所で確認することができます。
ロシア株への投資の詳細については、SBI証券 のホームページで確認するか、またはお問い合わせください。
大昔のことですが、ロシア経済に例えられたので教科書を思い出しました。山のように高く、海のように深く、
夫人によればお金のないのはロシアよ。
いつもお金はないと言っている。