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FXブログ 原油価格

カタール断交による世界経済と原油・天然ガス価格への影響について

2017年6月5日、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどのアラブ諸国がカタールと断交すると発表しました。

これらの国はすべて同じイスラム教スンニ派の国々ですが、カタールがイスラム組織ムスリム同胞団やシーア派のイランに融和的な姿勢を示していると、スンニ派の盟主を自任するサウジが“ついに切れて”国交断絶にまで発展したのです。

サウジ、カタール、UAE、バーレーン、イランなど、この地域の国々は石油と天然ガスの世界的生産国であることは誰もが知るところでしょう。ですから、今回のカタール断交が原油と天然ガスの供給、そしてその価格に何らかの影響を与えるのではないか、あるいはまた世界経済に何らかの影響を与えるのではないか、と心配されることになりました。

今回は、このカタール断交が世界経済と原油・天然ガス価格にどのような影響を及ぼすことになっているのかを考察することにします。

テロ組織支援がカタールとの断交理由

サウジアラビア、エジプト、アラブ首相国連邦(UAE)、バーレーンの4カ国が、カタールとの断交の理由として挙げたのは、カタールが「ムスリム同胞団などのテロ組織を支援した」ということでした。

2014年3月に、サウジ、UAE、バーレーンの3カ国はカタールがムスリム同胞団に融和的な政策をとっているとして、駐カタール大使を召還したことがありました。

ムスリム同胞団は、イスラム世界の変革を求め、政治での民主化を要求しています。ですから、その思想や影響力が強まることは、君主制(王制)国家のサウジなどにとっては脅威となるわけです。自分たちの体制を脅かすムスリム同胞団に融和的な姿勢を示すカタールは決して容認することはできないのです。

また、エジプトではムバラク政権後、同胞団出身のモルシ氏が大統領となりましが、現在のシシ政権は同胞団をテロ組織に指定していて、やはり同胞団に融和的なカタールのことを看過することはできないのです。

カタールとイランとの関係も断交の背景に

さらに、カタールとイランが融和的な関係にあるということも、断交の背景にあります。

16年1月にイランとの国交を断絶したサウジとバーレーン、そしてその他のスンニ派諸国としては、核やミサイル技術の開発を進め、自国内のシーア派組織に影響を及ぼすイランは、一致結束して抑え込みたい相手なのです。

ところが、カタールがその結束の足並みを乱しているというわけです。

カタールとしては、沖合にある自国の世界最大級のガス田がイラン側のガス田と海底でつながっているため、協調して開発せざるを得ないという事情があり、イランと敵対するわけにはいかないのです。

断交による経済的影響

カタールは食糧の大半を輸入に頼っていて、しかも陸路はサウジだけしかないために、サウジが国境を閉鎖すると発表すると食糧不足になることが心配されました。

しかし現在、サウジやUAEに代わって、イランやトルコから食糧や水を調達する方向で調整が進んでおり、カタールにとってはとりあえず大きな問題とはなりそうもありません。

また、2022年のサッカー・ワールドカップに向けて準備が進むさまざまな建設工事では、建設資材などの輸入に影響が出ることになります。ところが、そうした工事を請け負っている会社の多くがサウジのゼネコンということで、結局サウジ側にも打撃が及ぶことは避けられそうもありません。

一方、UAEはカタールからの天然ガス輸入ができなくなり、国内に多額の不動産投資をしている富裕カタール人が資金を引き揚げる恐れも出てきますので、経済的にはかなりのマイナスにならざるを得ないでしょう。

ただ、現在までのところ、カタール側はドルフィン・パイプライン経由のUAE向けの天然ガス供給を止めていないということです。

日本についても、やはりその影響が心配されます。カタールは世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国であり、日本は16年に全LNG輸入のうち15%をカタールから輸入しており、原油も同年で全体の9%を同国から輸入しています。

ですが、これまでのところLNGや原油の輸入への影響はほとんど見られておらず、今後もあまり心配する必要はないと考えらえます。

ただし、UAEのドバイにある経済特区をカタールとの取引の拠点として利用している日本企業にとっては、人や物の流れに影響が出ることは避けられず、事業の見直しもやむを得ないないかもしれません。

そして中国ですが、同国は現在、湾岸協力会議(GCC)と自由貿易圏をめぐる交渉を行っており、それが重要な段階へとさしかかるところにありました。ですから、今回の断交によって交渉が遅れることは必至で、中国は大きな影響を受けざるをないでしょう。

断交による原油価格への影響はほとんどなし

カタールを含め、今回の断交に関係する国々が世界有数の石油・天然ガス輸出国であったために、供給量に影響が及び、世界の原油価格や天然ガス価格に上向きの変化が起こるのではないかという観測も流れました。

しかし、原油価格や天然ガス価格に影響することはほとんどありませんでした。

断交が発表された6月5日のニューヨーク原油先物市場では、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物価格が続落し、約3週間ぶりの安値になっています。ロンドンICEでも原油価格は下落しました。断交による供給への影響は限定的で、供給過剰の状態に変わりはないと判断されたのです。

ただし、翌日はニューヨークとロンドンの両市場とも原油価格がやや上昇に転じましたが、それは一時的なものでした。その後は、原油は世界的に供給過剰状態にあるとみられて、価格は下落傾向をたどっています(図左)。

天然ガスの場合は、6月5日以降、価格の低下傾向が収まり、ほぼ横ばいで価格が推移していますが(図右)、カタール断交による影響はそれほど大きく現れることにはなっていないと言って差し支えないでしょう。

結局、今回のカタール断交自体は世界の原油価格や天然ガス価格にほとんど影響を与えることはありませんでした。このような断交騒ぎくらいどうでもいいというほど、現在、世界的な原油の供給過剰状態が進行しているということではないでしょうか。天然ガスも需給は緩和気味の状態に置かれているということです。

まとめ

今回のカタール断交は、当事国のすべてが何らかの経済的損失を受けることになるでしょう。

断交をした側にも痛みが伴うということで、それだけサウジなどのカタールに対する不満が強かったということだと思われます。

しかし現在、仲介国を通して双方が話し合いをする方向で動いていますので、断交状態はいずれ解消されることになるでしょう。

この断交が日本の資源輸入に及ぼす影響は、今後もほとんどないと考えられますが、一部の企業ではカタールやUAEでの事業の見直しをせざるを得ないことでしょう。

カタール断交による原油価格と天然ガス価格への影響はほとんどなく、今後もないと言っても差し支えないでしょう。

現在は、世界的な原油の供給過剰状態が解消されにくい構造になっています。

石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの産油国は協調して減産を実施しようとするのですが、そうすると原油価格が上昇することになりますので、シェールオイル掘削の採算性が改善するために、米国などで石油生産が増えることになります。

結局、OPEC諸国やロシアがいくら減産をしたとしても、世界の原油生産量がなかなか減らない構造になっています。こうして、供給過剰で原油価格が下落しやすくなる一方、1バレル=60ドルを超える価格にまで上昇していくのが難しくなりつつあるのではないでしょうか。

いずれにせよ、原油価格や天然ガス価格に大きく影響するのは需給関係です。今回のカタール断交によって需給関係がひっ迫することはないだろうと判断されたことで、価格には影響しなかったということです。

原油投資に関しては以下参照
⇒原油価格暴落は投資のチャンスか?【原油先物に少額から投資する方法】