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イギリス 各国の情勢

英国の総選挙結果からみるEU離脱交渉の見通しと為替への影響について

2017/06/13

6月8日、英国で総選挙が実施され、議会の新勢力図が決まりました。改選前、過半数(326)を超える議席を握っていた保守党は12減らして318議席、最大野党の労働党は33増の262議席、スコットランド民族党(SNP)は19減の35議席、自由民主党は3増の12議席、そして北アイルランドの地域政党である民主統一党が2増の10議席などとなりました。

この結果、どの政党の議席も過半数を超えない、いわゆるハングパーラメント(hung parliament、宙づり議会)の状況が生まれることになりました。

保守党のメイ首相は、民主統一党の閣外協力を得ながら、引き続き政権運営を担うことに意欲を示していますが、果たして思うように進めることができるのかは疑わしいところです。

今回のこの選挙結果を受けて、今後の英国の政治、そしてこれから本格化する欧州連合(EU)との離脱交渉はどのように展開していくことになるのでしょうか。

また、英国の政治情勢は、為替市場にどのような影響を与えることになるのでしょうか。

今回は、そうしたことについて考察することにしましょう。

目算が狂ったメイ首相による解散・総選挙

今回の総選挙は、5月3日の下院解散を受けて行われたものですが、本来の次期総選挙は20年に行われる予定でした。ですが、メイ氏は任期を3年も残して、解散を強行することになりました。

欧州連合(EU)からの強硬離脱(ハードブレグジット、hard Brexit)の道を突き進む保守党のメイ首相としては、過半数を大きく超える議席を一挙に獲得しようと、解散に踏み切ったというわけです。

議会構成を自らに有利な形に変え、EUとの離脱交渉を一気に進めようとしたということです。

世論調査では、解散前には保守党が支持率で労働党を大きく上回っており(4月26日の調査では、保守党と労働党の支持率はそれぞれ45%と29%)、メイ首相が強気な決断をしたとしても、多くの人はそれを無謀だとは決して思っていなかったはずです。

選挙中当初は、保守党の圧勝が予想されていましたが、メイ氏が唐突に社会保障の高齢者負担増を提案したことで流れが変わってしまいました。

また、マンチェスターとロンドンで大きなテロ事件が起こったことも、メイ氏には逆風となってしまいました。

「安全と安心」を掲げるメイ氏が、内相を務めていた時期に、警官2万人を削減していたことが批判の対象となり、その削減の理由が「緊縮財政」にあったことで、メイ氏の財政緊縮へと向かう姿勢そのものが批判されることになりました。

それが、大学授業料の無料化などを主張していた野党第一党の労働党には有利に働くことになったのです。

そして、EUからの強硬離脱に反発する多くの若者たちが、労働党の支持へと動いたことも、メイ氏の目算を狂わせることになりました。今回の総選挙の投票率は68.7%と、前回の2015年の時より2.6ポイントも高まっていますが、その多くが若者の投票率が上がったことによるものだとみられています。

EUからの強硬離脱の先行きと再選挙

英国のEUからの離脱については、そもそも昨年6月の国民投票で示された民意は、EU離脱支持52%、残留支持48%でした。非常な僅差だったにもかかわらず、メイ政権が主導する形でいつの間にか強硬路線になってしまい、結局3月29日にはEUに対して離脱通知をすることになりました。

一方、最大野党の労働党はEU離脱に関しては穏健路線を掲げ(残留支持というわけではありません)、単一市場へのアクセス重視の立場を取っています。

ところが離脱には、巨額の離脱制裁金(1000億ユーロとも言われる)の支払いも予想されるとわかってきたことで、国民は「バラ色の離脱」の熱狂から次第に覚め、離脱後の英国の居場所について真剣に心配し始めてきているのです。

結局、メイ氏が突き進もうとしているハードブレグジットは、国民の強い支持を受けているというわけではないので、実現するかどうかは疑問と言えます。

保守党の中には、決して妥協することのない離脱強硬派グループも存在していますが、中には穏健路線を唱える人もいますし、またメイ氏が閣外協力を呼び掛けている民主統一党のフォスター党首は「誰もハードブレグジットは見たくない」と穏健路線支持の側にあります。

ですから、メイ氏が今まで通り強硬路線を貫くということは難しいことになるのではないでしょうか。

もし、メイ氏がハードブレグジットを実現したいのであれば、再び下院の解散・総選挙を行い、安定多数の議席を獲得することを狙うしかないでしょう。

こうした事態は、ハングパーラメントの中で政権運営が行き詰まったときには十分起こりうることです。早くて数カ月後に再選挙ということも、まったくあり得ない話ではないと思われます。

EU離脱交渉と為替への影響

英国はすでにEUに対して離脱通知をしましたので、離脱条件などを決める原則2年間の交渉期間は始まっています。

6月19日には、いよいよEUとの本格的交渉に臨むことが予定されており、メイ氏はデービス離脱担当相やジョンソン外相らを留任させ、予定通りに離脱交渉を進める構えです。

交渉項目はおよそ5000あるとも言われ、EU側も厳しい態度で臨む方針なので、交渉は大変難しいものになることが予想されます。

また、2年間の交渉の後、EUの全加盟国が交渉延長に同意しない限り、たとえ離脱条件のすべてが決まっていなくても、英国は19年3月末には離脱をせざるを得なくなります。

英国の政治的混迷が続くと、離脱条件や貿易協定などが決まらない中で、EUから切り離されてしまうということも十分あり得るのです。

さすがに、そうした状況を英国民は歓迎しないでしょうから、追い込まれる中で英国民は賢明な判断をするとは思うのですが…。

今回の保守党敗北という選挙結果が明らかになると、外国為替市場では英通貨ポンドが売られ、急落することになりました。9日には、欧州市場や米国市場などでポンドは対ドルで前日に比べておよそ1.7%安くなっています。

東京市場でも、ポンドは対ドルで1ポンド=1.26ドル台前半と、4月中旬以来の安さとなりました。一方、日米欧の株式市場はおおむね上昇して、ほとんど影響はありませんでした。

最近のポンドの値動きを見るとわかるのですが、メイ首相率いる保守党が下院選で圧勝し、政治が安定するだろうと予想されると、ポンド相場が上昇する傾向がみられます。

一方、選挙戦の中で、保守党の苦戦が伝えられ始めると、逆にポンドが下落の方向へと傾き始めています。つまり、英国での政治的安定度がポンド相場に大きな影響を与える要因となっていることは間違いありません。

ですから、今後予想される英国での政治的混迷とEU離脱交渉での先行きの不透明さは、ポンド安へと向かう圧力とならざるを得ないでしょう。

英国に安定的な政権が誕生し、EUとの離脱交渉が強力に進められるようにならない限り、なかなか積極的なポンド買いの動きは出てきにくいように思われます。激しい値動きを利用するなかでの一定のポンド買いの動きは、当然あるとはしても…。

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