ブラジル経済の現状と今後の見通し【ブラジルに投資する方法は何があるのか?】

2017年第1四半期、ブラジルの実質国内総生産(GDP)が前期比1%増となり、実に9四半期ぶりにプラス成長となりました。2014年第4四半期の0.3%増以来のプラスで、ブラジル経済は2年間のマイナス成長からやっと抜け出すことになりました。

2016年8月には、ブラジルでリオデジャネイロオリンピックが開催されましたが、皆さんの記憶の中にも、そのいくつかのシーンが残っているのではないでしょうか。

同大会は、ブラジル経済がマイナス成長という苦境にある中で開かれたもので、当時は、窃盗や殺人が多発する治安の悪さもメディアでよく取り上げられたものでした。

今回は、この人口2億人以上を有する南米の大国ブラジルの経済の現状とその見通し、通貨レアルの動き、そして日本国内で行えるブラジルへの投資法についてみていくことにしましょう。

2015年以降、ブラジルはマイナス成長に

BRICSと呼ばれる新興国に含まれるブラジルは、世界有数の資源大国であり、同じBRICSの一員であるロシアとは共通するところが多くなっています。

石油と天然ガスなどの1次産品に大きく依存するロシアでは、クリミア半島併合後の原油価格の急落と欧米からの経済制裁などによって、2014年末から大変な経済的苦境へと陥っていきました。

そのロシアと同様に、ブラジル経済も1次産品産業に大きく依存していて、同国の輸出の半分近くは鉄鉱石、大豆、原油などの1次産品が占めています。

ブラジルからの輸出の1割強を占める鉄鉱石の国際価格は、2014年1月に1トン当たり128.12ドルでしたが、同年12月には同68.67ドルへと急落し、原油価格の急落と重なって、ブラジル経済に非常に大きな打撃を与えることになりました。

さらに悪いことには、ブラジルでは2014年に半官半民の石油会社ペトロブラスの工事発注に関わる汚職事件が発覚し、当時のルセフ大統領がそれに関係していたことで、政治的混乱が起きてしまいました。その後2016年5月に、大統領は弾劾を受け、職務停止へと追い込まれることになりました。

結局、テメル副大統領が大統領代行となり、一方で、ブラジル最大の企業で最大の設備投資企業でもあったペトロブラスの経営状況は急激に悪化していきました。

同社は設備投資を大きく減らさざるを得ず、ブラジル経済には大きなマイナスとなったのです。

一方、ブラジル中央銀行は、インフレが目標上限の6.5%を超えて進行し、通貨レアル安も進んだことで、2014年10月以降、政策金利を断続的に引き上げていくことになりました。結局、2015年7月には、政策金利は14.25%という非常に高い水準にまで達することになりました。

こうした中で、ブラジルのGDP成長率は、2015年第1四半期にマイナス1.3%を記録したのを皮切りに、第2四半期マイナス2.3%、第3四半期マイナス1.4%と、マイナス成長を続けていくことになりました(下図参照)。

さらに、2015年12月、米国FRBがゼロ金利政策を解除したことも、ブラジル経済にはマイナスとなってしまいました。

それにより、通貨レアル安への圧力が高まり、インフレが加速することにもなりました。そのため、ブラジルは不況下でも高金利を維持せざるを得ない状況に置かれることになったのです。

結局、その後2016年の第4四半期のマイナス0.5%まで、ブラジルでは実に2年もの間マイナス成長が続くことになりました。

2017年に入り、ブラジル経済は回復基調に

ブラジル経済に大きな影響を及ぼす主要な輸出品、鉄鉱石の国際価格を見てみると、2016年11月に入り急騰し始めています。

2016年10月に1トン当たり58.95ドルだったものが、2017年1月には同80.82ドル、そして2月には同88.80ドルへと価格が大きく上昇しています。

ただ、その後は次第に価格を下げ、2017年6月には同57.86ドルにまで低下しています。ですが、鉄鉱石の国際価格は、2016年後半から17年の初めにかけて高めに推移しており、ブラジル経済にとってはかなりの救いとなったことは間違いありません。

また、ブラジルにとって、鉄鉱石に次いで重要な原油の国際価格も、2016年2月から上昇に転じており、そのこともブラジル経済にはプラスとなっています。

2016年12月、2017年1月、2月、4月にはWTI原油価格が1バレル=50ドルを超え、原油輸出国にとっては歓迎すべき価格となったのです。

一方、ブラジル中央銀行は、インフレ率が低下し、通貨もレアル高へと進んでいたことから、2016年10月、政策金利の引き下げ(0.25%)へと舵を切ることになりました。

その後、中銀は6会合連続で金利の引き下げを実施し、2017年5月31日の決定によって、政策金利は10.25%にまで低下することになりました(下図参照)。

こうして、ブラジル経済に明るさが見え始める中で、2017年第1四半期(1~3月期)、ブラジルのGDPは前期比1%増となり、9四半期ぶりにプラス成長となったのです。

そこには、天候に恵まれ、穀物生産が13.4%増えた農業部門の大きな貢献があったのですが、鉱業や建設部門もわずかながらプラスとなり、経済成長に貢献することになりました。

一方、同期間の個人消費は0.1%減でしたが、減少幅の縮小という改善傾向がみられ、ブラジル経済が回復基調にあることが明らかとなりました。

その後の経済の動きをみると、2017年5月の工業生産は前月比0.8%増、前年同月比4.8%増となり、17年上半期の自動車生産は前年同期比23%増と大幅に増大しています。

そして、2017年5月の小売額は前年同月比2.4%増と、消費も順調に回復してきています。

2017年6月の広範囲消費者物価指数(IPCA)というインフレ率を示す数値は、マイナス0.23%で、11年ぶりのデフレとなり、インフレもすでに収まっていることがわかります。

そのため、ブラジル中央銀行の利下げも今後順調に行われることが予想されますし、そのことがブラジルの経済活動をさらに後押していくことは間違いないでしょう。

ブラジル経済の現状を示す資料として、経常収支と外貨準備高に関する図表も、参考までに以下に示しておきます。2017年3月、4月以降、双方とも顕著な改善がみられます。

テメル大統領の汚職疑惑や米国の利上げなどの懸念材料も

ただ、今後のブラジル経済にとっての懸念材料として、まずテメル大統領の汚職疑惑が挙げられます。

テメル大統領が食肉大手のJBSに便宜を図ったという疑惑ですが、大統領は否定しています。ですが、国民の多くはそのことを信じておらず、テメル氏の支持率は7%にまで低下しており、76%が辞任を求めています。

ただ、現在国会では、国民に不人気の労働規制緩和をねらった労働法改正や国民の負担増を求める法案などが審議されていて、連立政権を組む勢力の人たちの多くは、この際、不人気の政策の全責任をテメル氏に押し付けてしまおうと考えていて、結局、氏が大統領をしばらく続けるということになりそうです。

大きな政治的混乱はブラジル経済にとっては、株安や通貨安に繋がるものなので、望ましくはありませんが、とりあえず、テメル氏の汚職問題はそれほど大きな影響を経済に及ぼすことはなさそうです。

そして、懸念材料として挙げられるものに、米国の利上げがあります。

2017年6月、米国FRBは今年2回目の金利引き上げを行いました。0.25%引き上げた3月に続いて、同じく0.25%の引き上げを実施し、政策金利は0.75~1.00%となりました。

米国の金利引き上げは、ドル高・レアル安とインフレに繋がるものなので、ブラジル経済にとっては望ましいものではありません。米国で今後も利上げが予定され、その一方で、ブラジルでは利下げへと向かうようになっています。

いずれにせよ、米国での継続的な金利引き上げが、ブラジル経済にとっては大きな懸念材料となることは間違いありません。

さらに、鉄鉱石や原油、大豆などのブラジルの主要な輸出品の国際価格の動向も気になるところです。

ですが、2014年のように価格が急落することは、余程のことがない限りは起こらないと思われますので、とりあえず、この点はあまり心配することはないのではないでしょうか。

いくつかの懸念材料はありますが、ブラジル経済はすでに一時の不振を脱しており、今後少しずつ景気が回復していくことは間違いないのではないでしょうか。

ブラジルへ投資する方法 国債、投資信託、FX、外貨預金で可能

一時の不況を脱し、回復過程にあるブラジル経済に対しては、日本からも投資ができるようになっています。

現在、多くの証券会社や銀行が、ブラジルに関係する商品を数多く取り扱っています。

ブラジル株式やボベスパ指数(ブラジルの代表的な株式指数)などに投資するファンドやブラジル国債に投資するファンドなどもあり、実に様々なファンドを通して各証券会社や各銀行から投資できるようになっています。

たとえば、新生銀行ではブラジル国債へ投資するファンドやブラジル株式へ投資するファンドがあり、HS証券では「資源ファンド(株式と通貨)ブラジルレアル・コース」と呼ばれるファンドなどを取り扱っています。

また、HS証券や三京証券では、ブラジル国債を始めとした各種のブラジルレアル建ての債券へ投資ができるようになっています。ちなみに、ブラジル国債の現在の利回りは、7~8%です。

FXに関しては、IG証券が国内で唯一、レアルFXのオンライン取引ができるようになっています。

さらに、外貨預金ついては、市中の大手銀行からネットバンクまで多くの銀行で取り扱っていますが、大手銀行については手数料が高く設定されていますので、そもそも外貨預金にはあまり適していないかもしれません。

外貨預金をするなら、ネットバンクの方が良いのですが、各銀行により手数料が異なっていますので、事前に確認をすることが必要です。

ブラジルレアルの外貨預金は、現在、普通預金の年利が税引き前で0.4%、定期預金(最低預入金額2000レアル)1カ月・3カ月では4.8%となっています。

ただ、利息には20.315%の税金がかかることになりますし、手数料もかかりますので、大きな金額を預けない限りはそれほどの利益とはならないかもしれません。

まとめ

2015年~16年、ブラジルはずっとマイナス成長を続けてきましたが、2017年第1四半期に、やっとプラス成長を達成しました。

2017年第2四半期以降も、ブラジル経済は順調に回復してきており、プラス成長を続ける可能性が高いでしょう。

ブラジル株価やボベスパ指数についても、下降するよりは上昇する可能性の方が高くなると思われます。

ブラジル中央銀行は、今後も利下げを続けていくことになるでしょう。2017年中には一桁の利率となり、そしてその後も、ブラジルの政策金利は低下していくと予想されます。

米国では、ブラジルとは反対に、2017年にもう1回と翌年以降にも数度の利上げが行われると予想され、今後はドル高・レアル安への圧力が高まる可能性があります。

ただ、2017年3月と6月の米国の利上げ後の為替の動きをみると、いくらかドル高・レアル安にはなってはいるものの、それほど大きなレアル安とはなっていません(下図参照)。

今後、両国の金利差が縮小していったとしても、ブラジル経済が順調に回復していくことで、それほど大きなドル高・レアル安には進まない可能性もあります。

ブラジル通貨レアル建てで投資をする場合、レアルの対円レートも気になるところです。

上図をみると、2017年6月からレアルは対円でいくらか価値が低下してきています。

2017年に入ってからは、だいたい1円=33~37レアルの間で変動していますが、今後はブラジルでの利下げが予想されますので、やや円高・レアル安に動くかもしれません。

円高・レアル安があまりにも進行すると、為替差損で収益が吹っ飛んでしまうこともありますので、為替レートの動きには絶えず注意を払うようにしてください。

いずれにせよ、高金利であるブラジル国債や各種債券への投資や外貨預金は、日本国内への同種の投資を行うより多くの収益を得る可能性があることは間違いありません。

ですが、為替レートがドル高・レアル安、円高・レアル安に大きく振れてしまうと、為替差損が生じることで、思ったような収益を上げることができなくなる可能性もあります。

FX取引では、為替変動をうまく読むことによって収益を上げることができるかもしれませんが、為替変動というものが、ブラジルを含めた外国関連の商品に投資するときのリスクとなりますので、特に注意をするようにしてください。

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