あれは私が大学生の時に体験したヘンテコなアルバイトのお話である。
仕事の内容としてはスーパーの店頭(入口と店内の境目あたり)に立ち南国のフルーツ「パイナップルの芯を一心不乱に取り除く」というアルバイトを経験した。
お給料の話
まずは給料について書いていく。
パイナップルの芯を取り除くアルバイトは、いわゆるド短期バイトと呼ばれる日給制であった。
1日7時間労働で6700円。
大変中途半端な数字だが時給に換算する1000円に達するかどうかという時給であるが地方都市では高額時給の部類に値する。
現場はどこだ
バイトの現場は奈良市のスーパーであった。
当時大学生であった私は他県に住んでいたが、交通費が出るということ、それなりに時給の良いバイトであること、そして「永遠とパイナップルの芯を取り除く作業」という魅力に惹かれアルバイトをしたのだ。
いま思えばパイナップルの芯のどこに魅力を感じたのかさっぱり分からない。
業務内容について
先に仕事の内容について紹介したい。
パイナップルと言うのはご存知のとおり、固く黄色の皮と緑の葉がトレードマークの果物だ。
パイナップルを切ったことがある方ならわかって頂けると思うが、パイナップルの皮は予想以上に分厚く葉っぱは尖っているため手で持つとチクチクと痛い。
そんな「僕を食べないでください」と主張する果物から芯だけを取り除くのは非常にめんどくさい。
私は包丁を使って芯を取り除くのだと思っていいたが、実際現場について業務内容の説明を受けると何やら特別な道具を使ってパイナップルの芯を取り除くことがわかった。
その特別な道具を何と説明して良いかわからない。
もうパイナップルの芯取り除き機としか言えないのだが、あえて例えるなら「書類に穴をあけるパンチ」のような道具だ。以降「パイナップルパンチ」とする。
パイナップルに付いている葉の部分を切り落とし、パイナップをパイナップルパンチにセット。
そしてパイナップパンチの上部に付いたレバーを下げることで、パイナップルに鉄の筒のようなもの突き立てられ、そのままパイナップルの芯を取り除くことができるという優れものだ。
この世の中にそんな道具があるのかと感動したものである。
そして芯が取り除かれたパイナップルを輪切り、もしは一口サイズにカットしてパックに詰めて商品棚に置くというのがこのアルバイトの一連の流れとなっていた。
言ってみれば演出を派手にした実演販売である。
辛かったこと
結論から言おう。もう一度同じアルバイトをしろと言われるなら出来るだけ遠慮した。
「あれだけパイナップルパンチについて詳しく語るのだから感動していただろう」という意義は却下だ。
まず、第一にパイナップルパンチは重いうえにデカい。
最長1メートルは無いにしてもそれに等しいくらい大きいし、台車を持ってこないと楽に運ぶことは難しい。
さらに言えばパイナップルの芯を抜くときにレバー下すと上記したが、これも大変な力がいる。
もしも面白半分にパイナップルパンチを手に入れた暁には
「なんでパイナップルの芯一つ抜くのにこんな労力を使わなければならないのか不思議だ。それなら初めから芯を抜いたパイナップルを買いたい」
と思うであろう。
第二にパイナップルを長時間触っていると手がピリピリと痛んでくるのが辛かった。
これはパイナップルに含まれる消化酵素が手のタンパク質をじわじわと侵食しているからに他ならない。
つまり酢豚にパイナップルを入れると豚肉が柔らかくなるのと同じ作用が私の手の上でも起こっていたのだ。
「ビニール手袋をすればいいじゃない」
と思われるだろうが薄いビニール手袋ではパイナップルの葉を何度も掴んでいるとビニール手袋は直ぐに破けてしまい使いものにならなかったのだ。
嬉しかったこと
このアルバイトをやっていた時期はクリスマス直前であった。
家族連れがクリスマスケーキの材料にするため私の切ったパイナップルをお買い上げされていく。非常にうれしい。
嬉しいのだがパイナップルが売れれば売れるほど私の手はふやけていく。
物珍しさに見物にきた子供さんの前でパイナップルパンチの説明をしながらパイナップルの芯を抜くと喜んでくれる。すると親御さんはパイナップルを買っていってくれる。
大変うれしい。
嬉しいのだがパイナップルパンチはすごく扱いづらい。
お客さんを前にしてパイナップルの芯を抜くのをわざと焦らして、他のお客さんもある程度集まったときに芯を抜くと歓声が上がったりする。
とても嬉しい。
うれしいのだが調子に乗って「お兄さんもう一回!アンコールするわ!」とか言わない。
ここはコンサート会場ではない。
色々とパイナップルパンチとパイナップルの消化酵素についての愚痴を書いたが相対的に見ると楽しかったバイトであるように思う。
パイナップルの芯を取り除くアルバイトはこうやって探す
ちなみにこのパイナップルの芯を抜くお仕事はタウンワークなどのアルバイト募集冊子で紹介されていた。
正確には「店内での実践販売」というふうに書かれており、応募した先がたまたまパイナップルの芯を取り除くバイトであったというわけだ。
恐らくもっと手軽な実践販売は存在するし、応募しても必ずパイナップルの芯を取り除くバイトが出来る保証はない。
こんな人にオススメ
私の体験したバイトは誰にでも出来る。
ただ、できるからと言って実際にやってみようと腰を上げる方はまずいないだろう。
ただ言えるのは
1パイナップルパンチを使いたい
2強靭な皮膚を持っている、もしくは強靭なゴム手袋を持っている
3お客さんを喜ばしてみたい
というであればオススメする。
一生に一度使うかどうかわからないパイナップルパンチを使えるし、パイナップルの偉大な消化酵素を肌で(文字どおり)感じられるし、お客さんに喜んでもらえるとどこかの街角で芸を披露して賞賛される大道芸人のような気分になれる。
モノ好きなバイトがしてみたい方はぜひどうぞ。