経営者が最も手をつけたくない経費節減策です。企業の業績が長期に亘って低迷し、色々な合理化、経費節減などを行ってきたが、それでも好転しない場合は従業員の給料を減額する措置を行う場合があります。

しかし、これは簡単にはできません。労働基準法により厳しく制限されています。

従業員の給料を下げなければならない状況は、中小企業ではほとんどが業績不振です。経営状態がなかなか好転しないで赤字体質から脱却できない会社は非常に多く存在します。全体のコストを下げるためには人件費にもメスを入れざるおえない場合でしょう。中小企業の合理化計画や再建計画ではよく見られる経費節減策です。

そもそも給料は会社と従業員との間で取り交わされた契約です。それは会社の就業規則の給与規定がベースになっており、会社が一方的に給料を切り下げることは法的に認められていません。但し合理的な理由がある時は例外的に認められる場合があります。

少なくとも業績が良くなったから上げる、悪くなったから下げる、という性格のものではありません。

業績の低迷は経営者の責任であって、従業員には責任はありません。従業員を使って、どのように利益を上げていくかは経営者の裁量によるものです。従業員は経営者の指示に従って働くことで給料という対価を得ているわけです。業績が悪くなってきたからといって一方的に給料は下げられません。

労働基準法第2条では、「労働条件は労働者と使用者が対等な立場で決定すべきものである。」とあります。

使用者側の一方的な理由での労働条件の不利益変更を制限しています。労働条件を変更する場合は、合理的な理由が求められ、さらに労働者の同意も必要です。そして減給の範囲も定められています。

労働基準法第91条で、就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は1日の額が平均賃金の1日分半額を超え、総額が一賃金支払い期における賃金の10分の1を超えてはならない、とあります。概ね10%が限度と言われています。

従業員の給料を減らす手順として、やらなければならないことは、前記のように従業員に説明することです。

その方法として3つの方法があります。

①使用者と従業員との話し合いによる個別の労働契約についての説明と同意

②使用者が制定する就業規則の説明と同意

③使用者と労働組合との間の労働協約変更の説明と同意

①は経営者が高度の必要性に基づいた合理的な内容で十分に説明して従業員の合意を得ること。

②は就業規則に記載されている賃金規定、残業、休日出勤、各種手当の規定を変更することです。就業規則の内容変更の権限は経営者にありますが、変更する場合は経営者が従業員代表の意見を聴取することが義務づけられていて、従業員全体の意見を確認する必要があります。高度な変更の必要性に基づいた合理的な内容を十分説明して同意を得ることになります。

③は労働組合がある場合です。組合に対して高度な必要性に基づいた合理的な内容を説明し同意を得る、ということです。

高度の必要性に基づいた合理的な内容とは、業績が著しく悪化して人件費を削減しなければ会社が危機に陥る可能性があり、それを経営資料(貸借対照表、損益計算書、資金繰り表など)で合理的整合性が説明できるものです。

これらが紛争にいたる可能性がある場合は個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づいた紛争調停を労働基準監督署に申し出ることになります。

従業員に給料削減の話をする前に経営者にやるべきことがあります。それは不良在庫の減少、新規採用の停止、非正社員化の促進、役員報酬のカット、希望退職者の募集、経費カット、その他、などです。これが前段階で行われないと話し合いが上手く行きません。

そして経営者側が従業員に対して説明すべき項目は、業績不振に陥っている会社の状況、具体的な数字、克服すべき課題とその具体的な見通し、賃金の引き下げ方法とその額、引き下げの期間と見通し、などです。

従業員の給料を減らすということは、会社にとっては苦渋の選択で、最後に行う改善策です。また従業員にとっては日々の生活と将来設計にとって重大事です。非常にデリケートな面の多い問題ですので紛争になり易いのが特徴です。慎重な対応が必要です。

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とはいえ、人件費の削減はできれば最後の手段として残しておきたいです。

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実際に改善策を提示されて、あなたが納得いくまでは契約をしなくていいので、人件費削減以外にも改善策はないか相談してみることは無駄ではありません。また、実際に人件費を削減するにあたっても、法に触れないように、会社の士気が低下しないように、実績と経験のあるプロのコンサルタントに相談するのがおすすめですね。

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