DMAT看護師のヨッシーのブログ

ER看護師でDMAT隊員副隊長を務めているヨッシーのブログです。DMATに関する情報、日々のDMATの業務、看護の技術について等、DMAT看護師に興味を持っている方に役立つ情報を発信していきます。

災害医療DMATが知っておくべき知識~航空医学~

      2016/05/13

以前に被災された方々を航空機を使った搬送方法をご紹介いたしました。今回は航空機で搬送する際に身体に与える影響や注意点、搬送時の処置など一般ではあまり知られていない航空搬送の概要などお伝えしたいと思います。

搬送する航空機について

搬送に使用する航空機は大きく分けて2つあります。固定翼機と回転翼機があります。固定翼機とは通常の航空機です。回転翼機はヘリコプターのことです。両者とも特徴や長所、短所があり被災地の場所や被災地の状態、傷病者の方の状態搬送距離などを考慮して使用する航空機を選定します。

Drヘリといえば身近に聞こえると思います。固定翼機の長所は搬送距離が長く取ることができることです。ジェット機やプロペラ機などがあります。

機内で医療活動する点としてはスペースが広く医療活動がしやすいという利点があります。さらに搬送する傷病者の人数も多く運べるということもあげられます。機内の与圧機構がしっかりしていることから医療者、傷病者どちらにも優しい与圧機構が備わっているのです。

短所としては大掛かりな離発着場所が必要ということです。民間の空港や自衛隊の航空基地を使用しなければなりません。そのため被災地から搬送拠点となる航空基地まで遠距離となることがあり結果全ての工程において結局航空搬送が長距離となってしまう場合があります。

次に回転翼機です。最大の長所として学校の校庭や空き地など少しのスペースがあれば離発着ができることです。そのため場所をそんなに選ぶ必要もなく傷病者を遠くの空港などに搬送する必要がないのです。

しかし短所もあります。機内のスペースが非常に限られており医療活動がしにくいということがあります。固定翼機には備わっていた与圧機構がなく小型のため積載燃料が固定翼機と比べると少なく搬送距離がどうしても短くなってしまいます。

また小型のため搬送する傷病者の人数もミニマムで一人といった人数雨になってしまうのです。搬送先にヘリポートがあれば良いのですが改まったそのような場所がなくてもやはり同じように空き地や公園や学校の校庭などがあれば事足りてしまいます。柔軟な運用ができるということが最大に長所となります。

機内環境が与える身体への影響、搬送前の必要な処置

航空搬送をすると地上の気圧と違い変化してしまいます。航空機内の与圧機構を最大限使用しても全く地上と同じ環境とはいきません。エンジンの音、気流による機体の揺れ振動乱急流があれば激しく機体が左右に上下に揺れてしまい機内での医療活動がままならなくなる場合もあります。

航空搬送すると体に中の閉鎖腔に気体の膨張が始まります。そこで臨床的に無視できない症状に対処するために工夫が必要になってきます。傷病者が負ってしまった傷病にもよってしまいますが十分な酸素の用意、十分な酸素投与、飛行高度を上げないようにする、与圧を最大限に調節する呼吸状態に応じてPEEP(呼気終末陽圧人工呼吸)等の処置が必要になってきてしまいます。

健常人でも高度8000フィート(高度約2400メートル、10000フィートが約高度が3000メートル)になると経皮的酸素飽和度SPO2は90から92%にまで低下していきます。機体の高度変化に応じて吸入酸素濃度を調節する必要が出てくるんですね。

その他にもまだあります。気胸の病態生理からドレーンを留置しないで航空搬送してしまったら気胸が悪化してしまいます。意識障害で搬送する場合は胃管の留置は必須です。何故なら気圧の変化でお腹の中の消化管のガスが膨張しその圧で嘔吐をしてしまい誤嚥を防ぐためです。

眼外傷においては気圧変化に伴い悪化してしまうので地上となるべく同じ気圧に保たれるように高度を調節する必要があります。頭部外傷においても同じことが言えます。気脳症があると気圧変動により膨張した空気が髄液の頭蓋内外へ流出し感染のリスクを高くしてしまいます。

トンネルなど車に乗車して入っていくと耳がこもることを経験された方も多いと思いますがそんな時は唾を飲み込んで耳抜きで簡単に問題は解決されます。

しかし傷病者ではそのような処置を自分では行えないことが多いがすぐに生命を脅かすことはない。でもその不快感から不穏になり暴れてしまうと無視できない状態となるので与圧を十分にかけたり離発着時の高度変化を緩やかにしたりすることが必要になってくる。医療的な処置としては血管収縮薬の点鼻や噴霧スプレーで対処します。

気管内挿管されている挿管チューブの管理もまた大変です。気圧の変化によってカフ圧が過膨張を起こしてしまい気管損傷やカフのエアー漏れをが見られてしまう。そのためカフに気圧変化に耐えうる蒸留水を使用することがあるのです。

点滴をしてそのまま搬送する場合があります。救急車やDrカーで搬送するには何の問題もありませんがボトル内の空気を完全に除去しないと圧の変化で滴下がうまくいかなどころか逆流を起こしてしまいます。ガラス瓶の点滴ボトルは最近見られなくなったが破損すると危険なので航空搬送では使われていません。

その他にもまだありますが航空搬送においての特徴と注意点でした。私もDMATにならなければ知らなかったことばかりです。これからDMATを目指す方の参考や知識に役立つことができれば嬉しい限りです。

 - DMATブログ