法人保険で節税、本当に効果があるか?

毎年きちんと利益を出している会社にとって、法人税はいつも頭の痛い問題です。税金を圧縮するには経費を増やして利益を減らし税金を減らす。他にも方法はありますが、これが常套手段なわけです。

この経費を増やす手段として法人保険も1つの方法です。

この法人保険は節税に対して強力な武器ですが、その仕組みと使い方を知らないと武器どころか凶器となって会社を襲います。何故なら法人保険で節税などできない、とはっきり公言している専門家もいるぐらいだからです。

つまり法人保険で節税対策になるかならないか、の問いに対して、扱い方でどちらにもなるというのが答えです。

法人保険が節税対策として有効になる場合

法人保険の主な目的はあくまで保障です。経営者や役員、従業員の死亡、ケガ、病気そして会社の福利厚生、退職金、事業保障、後継者対策などなどです。

節税対策として有効になるになるためには、法人保険の目的を持っていること、明確になっていることです。これがないと単なる税金の繰り延べになるだけです。

法人保険に加入すると保険料が損金扱いになり経費の一部として算入できますから利益を減らし、税金が減ります。さらに保険料は簿外で現金を積み立てていくことができます。

損金と解約返戻率

ここでこの仕組みを理解するためのキーワードとして損金と解約返戻率という数値があります。

損金は経費の一部となって会社の経費の総額を押し上げ、利益が圧縮されます。解約返戻率は法人保険解約時の返戻金の割合です。

解約返戻率は単純返戻率と実質返戻率があり、

  • 単純返戻率=解約返戻金/支払った保険料の総額×100
  • 実質返戻率=解約返戻金/保険に入っていない時の税引き後の利益×100
  • 単純返戻率はできるだけ100%に近いか、100%を超える返戻率の保険が望ましい(1つの指標です)。

実質返戻率は、会社の利益がからんできて100%を超えると得することになります。

単純返戻率が50%を割る場合は、保険料の半分が戻ってこないことになるので得にはなりません。解約時期が早すぎるとこのような現象が出る場合があります。

会社の業容が安定していない、資金繰りが厳しい、キャッシュフローも不安定な場合は、法人保険に加入すると逆に凶器となって経営を悪化させます。

法人保険も非常に種類が多く出ていますのでどれが自分の会社に会っているか十分見極めることが重要です。これが不十分ですと加入そのものがムダです。

節税は解約返戻金の扱いで節税になったりならなかったり

節税はこの解約返戻金の扱い如何で節税になったりならなかったりします。

節税は、解約返戻金が入金する時期に、上記に示したように退職者がいたり、計画された大規模修繕の予定があったり、その退職金や大規模修繕資金の支払いが同時期に行われなければなりません。

例えば、解約返戻金が保険加入後5年後に戻るとした時、毎年1,000万円の保険料を支払った時保険料は合計5,000万円です。この保険の5年後の返戻率が100%の場合、5000万円が戻ってきます。

この戻ってきた返戻金は税務上益金として課税されます。全額損金処理ができる保険を選んだ場合は、保険加入時から5年間毎年1,000万円の保険料を支払っていますが、これは全額損金で処理されていますから、毎年1,000万円分は課税されません。

ですが解約を申し込んで解約返戻金が戻ってくると、課税されます。

保険加入時に保険料が損金になっても解約返戻金が戻ってくると課税されますから、この場合は単に税金の繰り延べになるだけで節税効果は全くありません。この状態を見て、法人保険に加入しても節税にはならない、という人がいます。

ただ単純に税金が繰り延べされただけですからその通りです。

解約返戻金は雑収入で課税されます

解約返戻金が戻る時に同時に退職者の退職金や大規模修繕の資金の支払いがあると、これらの費用は全額損金処理できます。決算上の損益計算上には解約返戻金は益金で雑収入です。この場合も扱いによっては節税になったり、ならなかったりします。

この理屈を理解するためには決算書の損益計算書の勘定科目を見ればよく分かります。もっとも有効と思われる退職金で見ていきましょう。

会計上、役員に対する退職金と従業員に対する退職金に分かれます。

退職金は損金扱い可能

役員退職金は特別損失という勘定科目です。営業損益や経常利益には該当しませんが、損益計算書の経常利益の次の項目である特別損失に計上されます。税引き前利益の前にありますから全額損金算入が可能です。

但し、役員退職金は株主総会の議決が条件となります。ここで否決されないような対策が事前に必要です。

次に従業員に対する退職金ですが、税法上全額販売費一般管理費という勘定科目に相当しますので全額損金で処理できます。

従って、役員退職金は特別損失の科目、従業員退職金は販売費一般管理費に含む経費でどちらも損金処理が可能で、税引き前当期利益を減額させる要因となっていますから、最終的に税引き前当期利益の額によって法人税が決まりますので、解約返戻金が戻ってくる時期に退職金の支払いを合わせておけば、大きな節税となります。

販売費一般管理費の中の勘定科目が一時的に増額できるイベントなどがあれば同じ効果が得られます。

保険料を積み立てる保険に加入しない場合は、退職金相当額を積み立てた金額に対してかかる税金、これが保険に加入することによって、上記の理由で、つまり解約返戻金が相殺されているため保険に入らなくて積み立てた金額相当の税金分が節税となります。

解約返戻金を上手に使えば節税になる

上記のように条件によっては節税にならない場合もありますし、節税になる場合もあるということです。法人保険に加入すればどれでも節税対策になるわけではありません。また計画的な損金対策がされていないと節税はできません。

分かりにくい部分もあると思いますから、自分の会社に会った保険加入の方法や節税対策は税理士さんや会計士、FPに相談してみてください。

おすすめの法人保険は?

法人保険は本来企業で起こり得る各種のリスクに対して、そのリスクが会社に与えるダメージを最小にするよう担保する手段です。目的に応じて色々あります。大きく分けて2種類あり、経営者や役員、従業員など人を対象とした生命保険と損害賠償や各種の災害補償などのようなものを対象とした損害保険(今回割愛します)があります。

生命保険は5種類に分けられます。

〇長期平準定期保険:被保険者は主に法人の代表者、役員、で死亡保険です。特徴としては保険期間が長く、保険期間が終わると解約後返戻金は0となります。解約返戻率がピークになるタイミングが重要です。契約後5年でピークになるものと10年後がピークになるものがあり、一般的には10年後が多いです。保険料の半分が損金扱いとなります。

〇逓増定期保険:被保険者は法人の代表者又は役員の死亡保険。保険料の半分が損金となり、解約返戻金が貯まる…解約返戻金のピークが早く、ピークが短い。5年後から10年後の退職金として準備しておく。解約返戻金のピークが早くピークが短い。

〇養老年金:貯蓄性のある積立の保険です。通常は保険料の全額が損金扱い可能です。契約者が法人、被保険者が役員又は従業員、死亡保険金受け取人は役員又は従業員家族、満期保険金受取人は法人となります。

〇医療保険:事業保障にもなり、終身保障タイプの医療保険なら役員の一生涯の医療保障が得られる。保険料は全額損金算入可能。但し返戻金はない。給付金は法人には課税されますが個人は非課税です。

〇がん保険:節税効果が期待できる。保障が厚く、終身で貯蓄性も高い、そのかわり保険料が高い。1/2が損金算入で実質返戻率が100%を超えるものもある。

(出典:法人保険比較.net

おすすめの保険(参考)

節税効率の高い保険を主にご紹介します。

〇長期平準定期保険

  •  日本生命長期定期保険スーパーフェニックス
  •  東京海上日動あんしん生命 長割り定期
  •  エヌエス生命定期保険 クオリティ

〇逓増定期保険

  • 三井生命海上あいおい生命 逓増定期保険
  • 東京海上日動あんしん生命 逓増定期保険
  • FWD富士生命 生活障害定期

まとめ

法人保険で節税を計るのは実際には簡単ではありません。上記は法人保険と節税に関して概論ともいうべき内容です。法人保険の仕組や法人税、税務知識、会計経理などの基礎的な知識が必要ですから、法人保険で節税を行いたい場合はファイナンシャルプランナーや税理士、公認会計士などと相談しながらおこなうのが最も効率的です。

場合によっては大きな節税が可能ですから、徐々に国税庁の締め付けも強くなりそうです。

節税の世界は節税の知識があるかないかが大きな分かれ目です。知識そのものがお金です。業務上で利益を出す努力は当然ですが、知らないというリスクでお金が逃げていかないように、この分野での学習も怠りなく行いましょう。