所得税法では簿記とちがい、損失の計算をします。つまりスタートがマイナスの金額からということになるのです。所得税法では会計上では収入という利益部分を減らす要素として、あまり好ましくない単なる現金支出だと思いがちですが、所得税では損失の額は所得を減らす重要な節税要素なのです。ですから会社が過剰に計上しすぎないように制限を設けています。そのときの制限額を足切限度額といいます。

損失の足切限度額ということは、足切限度額の絶対値はプラスになるということです。具体的には足切限度額→課税標準の合計額の10%となっています。この値をプラスの絶対値のまま、雑損失というマイナスの絶対値から控除するということになります。

雑損控除の損失の金額の考え方

雑損控除とは所得税法では「居住者又はその同一生計親族でその年分の課税標準の合計額が基礎控除額以下であるものの有する資産について災害または盗難若しくは横領による損失が生じた場合に課税標準の合計額から控除できる額を控除すること」とされています。

つまり資産が災害などの損失に遭遇すれば、その時の資産の額を所得から控除し、所得を減らすことができるというものです。

このときの「資産の額」は災害にあった資産について、①災害前 ②災害後 ③時価をもとに考えます。

災害にあった資産は災害前時価と災害後の時価とどちらが高いでしょうか?当然災害直前の時価ですから、「災害直前の時価から災害直後の時価を減算した額」が基礎額となります。この差額は何を表しているのかというと、資産の被災者がその資産を手にいれるために支払ったお金のうち、対価性(売れる)のある部分を控除した残額のみを損失と考えるということです。

被災資産といっても対価性のある部分も残っていたりします。その部分は損失には組み入れないということです。次に基礎額に加減する額についてみていきましょう。

廃材価額

廃材価額というのは何でしょうか。これは被災直後の資産とニュアンスが似ています。廃材は名前のとおり廃材ではあるものの、その廃材に対価性がある場合のその廃材の呼び方で、対価性のある部分のみを表しています。対価性のある部分は損失にはならないということでしたので、この廃材価額は、損失の基礎額から控除します。

保険金等の額

災害時の保険に加入していた場合は、保険会社から保険金が支給されます。この保険金は損失の額を補てんするものですから、損失の額から控除します。

災害関連支出

災害に関連して支出した額のことです。ですからこの額は損失の基礎額に加算されます。

足切限度額について考える

足切限度額は課税標準額の10%です。課税標準額とは、10種類の所得から損益通算対象の損失があればそれを控除し、純損失の繰越控除などの額があればそれも控除した後の額のことです。この額の10%が、雑損控除における雑損失の足切限度額となります。つまり、足切限度額は損失にならさないための要素ということになります。

足切限度額には公式があります。ですが足切限度額というものが損失というマイナスの要素を減らすプラスの要素であるということを忘れがちになると、公式の意味が不明になります。それではみていきましょう。足切限度額の基礎額は雑損失の“金額”です。ここで注意です。雑損失の額といわれると損失だからマイナスの絶対値だとおもいますが、これは足切限度額なのです。

足切限度額は雑損失というマイナスを減らすプラスの額でした。ですから足切限度額の基礎額である雑損失の額の絶対値はプラスであると考えましょう。つまり「プラスからスタートする」ということになります。基礎額は損失だけれど額は絶対値がプラスということです。その絶対値プラスの損失の額Aから、災害関連支出の額Bから5万円Cを控除した残額を控除します。控除する額についてみていきましょう。

災害関連支出の額Bから5万円C引いた額を、損失の額を使ったプラスの絶対値で表される額から控除するということはどういうことなのでしょうか。A 減算① (B 減算② C)の公式で考えます。

足切限度額は少ない方がよい

ここで注意したいのは、足切限度額は少ない方がよいのです。目標は雑損控除額を減らさないことです。雑損控除額が減らないと、その分課税標準から減らされる額も減らされないことになるので、税金が少ないままになり、増えません。ですから足切限度額は少ないほうがよいのです。公式にもどりましょう。ですから、減算②はマイナスのままのほうが足切限度額は減ります。

足切限度額が減る場合というのは災害関連支出が5万円を超える場合ということになります。ですから、5万円を超える災害関連支出があれば、その超える部分の額は足切限度額の基礎額である絶対値プラスの損失の額を減らすことができるということになります。結果足切限度額が減り、雑損控除額となる損失額が減らないということになり税額が増えないということで節税になります。

足切限度額が増えると税金が減らない

足切限度額が増える場合というのは公式内の式(B 減算② C)がマイナスの場合です。つまり、災害関連支出Bの金額が5万円Cよりも少ない場合です。最もカッコ内が小さくなるのは、災害関連支出が0円の場合でこの場合、マイナス5万円となり、足切限度額はAという損失の額(絶対値プラス)に5万円が加算された額ということになります。この公式では災害関連支出の額が5万円以下のとき、足切限度額は増加するということを表しています。

災害関連支出の額が多ければ多いほど節税できるという訳でもない

災害関連支出の額が多ければ多いほど足切限度額は少なくなるということなのでしょうか?この公式だけではそうです。ですが所得税では「納税者の課税標準の10%と、公式の額とのいづれか少ない方を足切限度額とする」ということになっています。ですから足切限度額というものは災害関連支出が多ければ多いほど少なくなるということはなく、課税標準の10%の額のほうが少ない場合はこちらの額を足切限度額にするということになっています。

ですから、1年間の儲けが多い人ほど、損失の額と災害関連支出の額が多ければ多いほど増加する足切限度額の額が適用されることができるようになっているということなのです。つまり儲けを超えない範囲で雑損控除額はその儲けを減らす要素として働くということになります。雑損控除額も所得に応じた額になっているのですね。