所得税法では雑損控除というものがあります。損失の計算というとなんだか、ピンときませんよね。

簿記では売上原価という計算を期末に行いますが、その際は商品という資産を費用にふりかえたり、棚卸減耗損や商品評価損を費用に加えるということをしました。このように費用の増加はピンときますよね。簿記では費用というのは、利益を減らす要素としてマイナス面だけを認識していました。

ですが所得税では収入を減らす損失や必要経費などの要素は節税のための重要なアイテムとなっています。収入と費用を相殺した結果が所得であり、その所得が減るなら税金も減るからです。簿記では敬遠されていた費用が所得税では歓迎されるのです。ですからその分損失という額についても多くのの決まりがあるようです。

雑損控除は10種類の所得を生じさせる資産以外の資産の損失のこと

雑損控除の基本となる額は、被災直前時価と被災直後の時価の差額が雑損控除の基本の額となっています。

ところで、雑損控除というのはどのようなものなのでしょうか?ヒントは雑と損というところにあります。雑という字は様々なという意味があります。所得税は法人税と違い個人の生活に密着した税金となっています。個人の生活の範囲で生活に必要な資産が災害や盗難や横領にあったとき、その損失も所得税の計算の基本となる所得を控除する要素にできることになっています。

雑損失という損失を生む資産は個人の生活に密着した資産

雑損という損失の対象となる資産つまり、災害にあった資産は、10種類の所得を生む資産以外の資産である場合があります。

例えば家財や衣類などです。

家財や衣類を買うために生じた現金支出を損失と考えて、所得税の10種類の所得すべてのうち利益がある所得を控除します。収入は10種類の所得を生む取引、租税特別措置法の所得を生む取引からしか収入金額と認められませんが、損失については10種類の所得以外の取引から発生した生活用の資産も含まれるということになるのです。

このようなことから所得税は国民の生活に密着した税金だといえます。雑損は所得税の納税義務者だけでなく、その家族や親戚が被害を受けた場合もその被害額を納税義務者の所得から控除できます。税金を支払う経済的余裕のある人のことを担税力がある人といいます。所得税は担税力のない人に優遇措置を与える税法です。

ですから家族や親戚などの同一生計親族のうち、その人達の所得が38万円以下の人だけに雑損控除の適用をするということになっています。所得というのは収入とは違います。儲けのことです。給与で考えてみましょう。給与支給総額は収入金額です。ですが、社会保険料や社内預金などの控除額があります。これらを控除した残額が給与に関する所得だということになります。ですから所得が38万の人は給与で考えると、給与支給総額は103万以下の人ということになります。

生活に必要な資産には譲渡所得を形成する土地や家屋も含まれる

所得税法には譲渡所得というものがあります。一般的にものを売ることを譲渡といいます。ですが所得税法では譲渡によって生まれる収入を生む資産は限定されています。譲渡所得を生む資産は土地、借地権、建物、株式等、特定の公社債、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などになります。譲渡資産とは個人にとって生活必需品ではない資産ということになります。

生活に通常必要でない資産が譲渡所得の対象資産であるなら、生活に通常必要な資産は資産のうちこれらの資産以外の資産ということになります。具体的には時価30万以下の宝石、書画、骨董、美術工芸品などです。時価30万を超える宝石等が生活に通常必要のない資産ということになります。衣類については時価30万を超えても生活に通常必要な資産とカウントされます。

譲渡益は譲渡所得に災害による損失は譲渡所得を減らす要素ではなく、雑損控除となる資産

土地や家屋を譲渡したときは、それは譲渡所得を形成します。

本来、譲渡所得を構成する資産が災害等にあった場合は、生活に通常必要でない資産の損失として、譲渡所得を減らす要素になります。譲渡所得を構成する土地や建物ですが、土地や家屋が災害などにあった場合は、その損失は「生活に通常必要な資産の損失」ということで、譲渡損失ではなく、雑損控除の損失にカウントされるということに注意が必要です。

つまり、生活に密着する土地や家屋は、譲渡所得に属する損失となるよりも雑損控除の損失となったほうが、10種類のうち譲渡所得以外のプラスの所得を減らせる要素となることができ、納税者は税金をおさえられるという所得税上の配慮なのです。土地と家屋の場合は、譲渡の場合は譲渡所得、災害の場合は雑損控除で所得を減額するということになります。

同じ災害による損失額でも生活に通常必要な資産と生活に通常必要でない資産では減額できる所得の種類が違う

生活に通常必要な資産と生活に通常必要でない資産が災害にあったとします。所得税では損失という額は収入を減らす要素になれます。今までは雑損という損失について考えていましたが、今度は雑損によって減額される収入側についてみてみましょう。雑損によって減額される収入については、10種類の所得(収入から経費を控除した残額がプラスである場合:収入が残った場合)すべてが対象となる場合とそうでない場合があるのです。

その判断基準は災害をうけた資産の種類によります。

10種類の所得

  • 利子所得
  • 配当所得
  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 給与所得
  • 雑所得
  • 一時所得
  • 譲渡所得
  • 山林所得
  • 退職所得

1)10種類の所得(収入から必要経費を控除した残額がプラスであるプラスの所得の場合)すべてが、損失額によって控除される場合

この場合は、対象となる損失額は“生活に通常必要な資産”が災害や盗難や横領にあった場合の損失の額です。

2)災害による損失額が、10種類の所得のうちの一つである譲渡所得内の譲渡益を減らす要素にしかなれない場合

この場合は“生活に通常必要でない資産”が災害や盗難にあった場合です。生活に通常必要でない資産というのは30万超えの宝石や骨とう品や美術工芸品だと考えます。これらが災害にあったとするなら、損失は損失なのですが、譲渡所得という所得の計算の中でしか損失の威力を発揮できないということになります。

いかがでしょうか?このように雑損控除の計算要素になる損失は発生する取引によって、消滅させる対象となる所得に制限がかけられている場合があります。その理由は生活に通常必要でない資産を保有している人は、担税力があると判断されるためです。逆に生活に通常必要な資産が災害などにあえば、たちまち困ります。ですから所得税では、生活に必要な資産が災害にあった場合は、すべての収入を生む取引によって発生した収入を減らす要素にできるということになっているのです