相続のトラブルが増加傾向にあります。

相続は、遺言書による相続と相続人の協議による相続の2種類あります。遺言書のある場合は、法定相続より遺言書の方が優先します。これは民法により決まっています。

相続は、遺言書の記載内容、指示により執行されます。

遺言書が残されていない場合には、相続人の間で、被相続人の遺産の配分を協議して分けることになります。遺産の配分方法は法が定める方法でも、相続人同士の話し合いで決めてもよいことになっています。

いづれにしても相続人全員の同意が絶対条件です。その同意の証として遺産分割協議書を作り、全員で署名、押印して完成です。

相続の手続としては、これだけのことですが、遺言書があるとないとでは、大変な違いが出てきます。

実に様々な相続におけるトラブルが発生しています。そのトラブルの件数も増加しており、裁判所の調停、裁判となる事案、いわゆる紛争の手続をする相続人が増える傾向にあります。

そのトラブルの内、遺言書があればトラブルにならないと思われる典型的な事案があり、似たようなケースは少なくありません。

それは、戸建て住宅に住む夫婦2人を襲った不幸なトラブルです。

夫が遺言書を残さずに死んだために・・・

夫婦2人で一生懸命頑張って建てた戸建て住宅、ローンも返済中で、まもなく完済できる見込みです。

2人で生活を謳歌していたところ、突然夫が脳梗塞で倒れ、まもなく亡くなりました。

妻は呆然としてしばらく何も手に付かない状態が続きました。

そこへ、普段ほとんど交流が無かった夫の弟が突然訪ねてきて、遺産相続分の権利を主張しに来ました。

急なことで遺言書などはありません。それを確認した弟は、法律的に遺産総額の1/4を配分してもらう権利がある。というものです。

生活費以外の余裕資金はなく、遺産といえばこの家ぐらい、現金を要求されてもそれはとても無理な話です。

方法は1つ、家を売却して、資金をつくり、相続分を弟に渡すしかありません。妻は涙をこらえて家を売り、現金を作って弟に渡し、自らはアパートに転居しました。

あまりにもむごい事ですが、現行法では、この方法が最善となります。

もしも不動産が売れなかった場合は、もっと大変です。長期にわたって、裁判所の調停が続くことになります。

この事案の場合、遺言書があれば、もちろん法的に有効な遺言書であれば、そこに、財産の全てを妻に渡す、と明記してあれば、夫の弟の出る幕は一切ありません。従って何も問題なく、トラブルも発生しません。

普段の生活の中では遺言書など夫婦間で話題にもならないかもしれませんが、このような不幸に合う可能性は誰でもありますから、なるべく早くから遺言書を準備しておくことが必要です。遺言書は何度でも生前なら書き直しが可能です。

遺言書がないことによるトラブル

他にも、多種多様なトラブルがあります。いくつか紹介します。

① 家族間の争いです。父親が突然倒れました。父親の家の近所で暮らす次男の嫁が長きにわたって父親の介護の世話を続けてきました。父親の亡くなった後、長男夫婦が相続財産の分配を主張しました。これに次男の嫁が納得せず、やがて兄弟夫婦の家族同士が法廷で争うことになった。遺言書があれば、トラブルが回避できるケースです。

② ある人が、弟夫妻が亡くなって、残されたその子の親代わりとして長きにわたって育ててきました。養子縁組を済ませていませんでした。ある人が亡くなって、その人の遺産は実の子だけに配分され、育ててきた、姪には分配されなかった。
遺言書に、姪への分配分が明記されておれば円満解決のケースです。

③ 相続財産で家屋や土地があり、分割が難しい場合、これを相続人に等しく分割するには非常に難しい。売れるものもあれば売れないものもある。これを分けようとすると相続人間で不平等が生まれトラブルとなります。遺言書でこの土地は誰、この家は誰と、明記してあればトラブルが回避できます。

④ 相続人の中に行方不明者あるいは連絡が取れない人がいて、欠席のまま分割協議を行い遺産を分けた。その後本人が表れて相続を要求したためトラブルとなった。

⑤ 相続人の中に認知症あるいは知的障碍者がいるにもかかわらず、そのまま参加させて遺産分割協議を行った。後からこの協議は無効であることが分かりトラブルとなった。

ここに上げたのは、ごく1部です。他にも様々なトラブルがあります。

まとめ

遺言書がなくても、遺産分割協議などをしなくても、トラブルなく、遺産の分配ができているケースの方がはるかに多いのですが、家族という概念から個人中心の考え方に移行しつつある現在、その裏返しで、こうした相続のトラブルが増える結果となっています。

長男夫婦が長年にわたって親を介護し、生活を共にしてきたのだから、次男や長女は、相続分の請求は遠慮しておこう。というようなケースは、ほとんど無くなってきているのでしょう。

もらえるものはきちんともらう、個人優先の考え方です。従って家族間の争いを防ぐためにも、遺言書の存在がますます重要となってきました。遺言書の認識を念頭に入れて生活すべき時代です。

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