民法891条5項:相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は、相続人の欠落事由となり、相続を受ける権利を失うことになります。

被相続人は遺言によって、相続人に何をどれだけ相続させるかを決めることができます。遺言書がない場合は、相続人全員で協議して遺産分割の方法を決めることができます。

また、もう1つの方法は法律による法定相続分に従って相続することもできます。いわゆる法定相続です。

そして、何より優先権があるのは遺言書です。遺言書が最も強い相続方法となります。

従って、件数は少ないですが、こういう場合があります。

例えば被相続人と同居していた長男が遺言書があることを知り、それをたまたま発見して開封して、中を見てしまった。そうしたら、自分にとって極めて不利になるような事柄が書いてあった。

そのため長男は、その遺言書を破って捨ててしまいました。

遺産分割協議は遺言書が無いものとして進められ、法定相続により、長男は法定相続分を相続しました。

しかし、その後、次男が記憶の断片の中で父親が遺言書に関することをしゃべっていたような気がする、もしかすると遺言書がどこかにあるのではないかと疑義を覚え、長男を追求しました。

が既に遺言書の現物は破棄されて存在しないので、再度金庫内や遺品を探索したところ、遺言書の下書きのようなメモが見つかりました。

これをもって長男を厳しく追及したところ、ようやく遺言書を破棄したことをしゃべり出しました。

当然遺産分割協議は無効となり、遺産分割の話し合いはやり直しとなったわけです。

被相続人と長男の日頃の折り合いは悪く、被相続人は長男への相続を嫌っていたために起きた悲しい事件です。

寛大な次男は、長男の違法行為に対して、厳然と対処するなら、相続は一切ありませんが、罰として法定相続分の半分の相続を減額して、残り半分を相続させ、再度の遺産分割協議書を作成しました。

遺言書が自筆証書遺言にして金庫に保管してあったわけです。公正証書遺言であればこのようなことはあり得ません。原本が公証役場で保管されているからです。

秘密証書遺言は、内容は秘密のまま、遺言書の存在を証するため公証役場で証人2人の立会のもとで行いますから、破棄されても遺言書の存在は明確です。しかし内容は分かりません。

破棄したことが分かれば、破棄した相続人は遺言を受ける資格がなくなります。相続は話し合いか法定相続によることとなります。

罰則規定

遺言書の破棄は私文書毀棄罪で5年以下の懲役となります。民法では遺言を受ける資格が無くなるという罰則ですが、さらに刑法で懲役刑という罰則が付加されます。

遺言書の破棄、隠匿などは、とんでもない犯罪です。被相続人の意志を冒涜する行為です。そのため罰則は極めて重い内容となっています。

しかし法律は、1つの逃げ口を用意しています。

但し、これは遺言に対して、著しく不当な干渉行為をした場合だけ、としています。遺言書を無くしてしまったり、破棄してしまっても、不当な利益を得るためで はなければ、相続欠落にはならない、としています。(民法891条)

これは1種の逃げ口ですが、不当な利益追求の目的はなかった、とする証明を相続人本人が行わなければなりません。これは非常に難しいことです。

まとめ

遺言書は、被相続人にとって、自分の家族に自分の思いを伝える最後のメッセージです。遺言書は誰に何をどれだけ相続させるかの財産分割の指示を明確に出す手段ですが、被相続人の配偶者や子供たちへ、お母さん介護をよろしく、とか兄弟仲良く暮らして欲しい、などの心情も書くことができます。

被相続人と同居の長男との不仲、という話はよくある話です。

そのような状況下で被相続人は、長男を排除したような遺言書をどんな思いで書いたのでしょうか。明らかにトラブルになることは分かっていたはずです。

遺言書を見つけた長男がそれを破棄した行為は、とても思い罪ですが、その原因を作った被相続人の思量のなさも又厳罰ものです。