贈与税の暦年課税では税率変更がありました。税率は一般税率と特例税率とに分かれることになっています。特例贈与財産と一般贈与財産の両方を贈与された場合についてみていきましょう。

1.特例税率の対象となる受贈者

贈与者から財産の贈与を受けた人で暦年課税を適用する人のうち、父母や祖父母などの直系尊属から贈与を受けた人のうち、贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上の人は特例税率を用いて贈与税を計算します。

特例税率の方が一般税率よりも低く設定されています。最高税率は4500万以上の贈与を受けた場合の55%で、一般税率も特例税率も同じですが、それまでの税率は特例税率の方が低く設定されています。特例税率の適用がある財産を特例贈与財産、それ以外の財産を一般贈与財産と呼んでいます。直系尊属からの贈与を活性化させるために特例税率は設けられています。

2.暦年贈与課税では基礎控除は110万で節税

暦年贈与課税では基礎控除は110万となっています。ですから、110万以下の贈与財産の場合は、受贈者に贈与税がかからないということになります。このことから、相続税の節税対策の一つとして、毎年子に110万以下の財産を贈与していき、相続時の財産の額を減らし、相続税額を減らす節税ができます。

3.相続開始前3年以内の贈与は節税にならない

110万以下の贈与なら贈与税はかかりません。ですが被相続人の相続開始3年前、つまり被相続人が死亡する日以前3年前から死亡日までの間に、被相続人から、贈与があったとします。この時期にあった贈与は相続とみなされます。ですから相続税が課税されます。そういう意味でも、節税対策としての贈与は早い方がいいということになります。

4.110万以上の贈与なら、相続税の方が節税になる

暦年贈与の基礎控除額である110万よりも贈与額が大きい場合、暦年贈与税率がかかります。この時の暦年贈与税率は、一般税率と特例税率なのですが、これらの税率で課税させると、相続税を課税させたときよりも、納税者は少ない財産の取得なのに、税金を支払わないといけないという事が起こってきます。

5.贈与税率のほうが相続税率よりも高い

相続税では1000万の課税標準に対して10%の相続税なのに対し、贈与税では1000万の課税標準では40%の贈与税がかかってしまいます。税率20%の場合、相続税では課税標準が3000万円超え5000万円以下なのに対して、贈与税では300万超え400万以下で20%の税率が課税されてしまいます。贈与税率を適用させずに、相続税を適用させるというシステムが贈与税にはあります。これが贈与税の相続時精算課税です。贈与受けた年の贈与税の申告時に相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。

6.相続時精算課税の税率は一律20%

相続時精算課税の特典は特別控除額があることです。この額は一人の一生の間に2,500万の控除額が使えます。つまり、一生の間に相続時精算課税での贈与額が2,500万円までなら非課税ということになります。10年間という期間に相続時精算課税を適用した場合に、毎年500万ずつ贈与を受けたとします。

この場合6年目からは控除額2500万が0円になり、控除額0円となるので、贈与額500万に対して20%の税率がかかるということになります。それでも本来の贈与税率だと30%なのでまだ節税効果があります。つまり相続時精算課税を適用し、控除限度額の2500万を使い果たしてしまった後、300万以下の贈与をする場合は、相続時精算課税が本来の贈与よりも不利になるという状況が生じてきます。

本来の暦年贈与課税では200万超え300万以下では15%の税率だからです。ここで相続時精算課税を選択していると20%の税率がかかるからです。また200万の贈与があった場合は暦年課税なら200万の贈与の場合は10%の税率になるのに、相続時精算課税では一律税率である20%の贈与税率が課税されるということになります。

7.相続時精算課税を適用すると戻せない

相続時精算課税を一度選択してしまうと、暦年課税に戻すということはできません。また相続時精算課税で課税されたとしても、その財産は、贈与者が死亡したときの相続財産として、相続人の相続税の計算方式による相続税分だけが徴収され、相続時精算課税を選択した贈与財産については、相続税の課税価格に組み込まれて相続税Aが計算されるものの、贈与発生年度で支払った相続時精算課税で課税された20%部分の税額と相続税Aとの差額があった場合は還付されることになります。

受贈者のデメリットとしては、贈与年度に20%の税率分の納税額を支払わないといけないというだけです。相続時精算課税のメリットは、高い贈与税率でなく、税額が安くなる相続税率を適用し、その差額が還付されるというところにあります。暦年課税と相続時精算課税のどちらがいいかということについては、相続財産を減らし、相続税そのものを減らす目的がありかつ、贈与者が長生きするという前提であれば、暦年贈与課税を選択し、毎年相続人達に110万以下の財産を贈与していくことが節税になります。

このように状況によって、相続時精算課税の方が節税になる場合もあれば、暦年課税の方が節税になる場合もあります。

8.暦年課税において特定贈与財産と一般贈与財産の両方の贈与を受けた時

Aが兄から一般贈与財産100万円と両親から特定贈与財産400万円を受けた場合についてみていきます。暦年贈与課税は1年度に、受贈者が受けたトータルの贈与財産から基礎控除額110万円を控除します。(100万 加算 400万) 減算 110万 = 390万 この地点ではまだ特定贈与財産と一般贈与財産とには分けません。ポイントは財産の額を変更せずに、各税率を乗じます。それから総額の税額を、財産の額で按分していきます。

一般税率をトータル財産(贈与者がその年に受けた贈与財産の総額)に適用:390万 乗じる 20% 減算 25万 =53万円

特例税率をトータル財産に適用:390万 乗じる 15% 減算 10万 =48万5千円

このままでは、特定財産の額と一般財産の額の合計額390万が基礎額となっているので、税額もトータルになっているので、財産の額だけの税金を算出します。

一般贈与財産分の税額:53万円 割ることの 分母(特定贈与財産と一般贈与財産の合計額):(一般100万 加算 特定400万) 分子(一般100万) = 106,000円

特定贈与財産分の税額:48.5万円 割ることの 分母:(一般100万 加算 特定400万) 分子(一般400万) = 388,000円

まとめ

暦年贈与では特定贈与財産と一般贈与財産の両方を贈与された場合は、トータルの財産と、トータルの税額を、各税率で算出してから、最後に課税価格で按分するということをしていきます。暦年課税か相続時精算課税かの選択は贈与者の財産の状況などによって節税の効果がある方をチョイスすることをおすすめします。