企業の成長とともに、社内の事業部、部署などが徐々に多岐にわたるようになり、社内の管理体制も複雑になります。責任範囲や権限も不明瞭になり、社員のモチベーションも下がり気味になる場合があります。
こうしたことから、異なる部署を分社化して責任権限を委譲し、企業の活力を取り戻そうするのが分社化の目的です。そして同時に現行法では分社化は節税効果が大きいので、合わせて分社化の目的に含めて実施する中小企業も多いです。
今回はその中小企業の分社化による節税方法について述べます。その前に節税計算の基礎となる実効税率を算出しなければなりません。
目次
資本金1億円以下の中小企業の場合の租税
法人には様々な租税が課税されています。
- 法人税:所得800万円以下の部分には15%
- 所得800万円を超える部分には23.9%
- 地方法人税:4.4%
- 法人住民税:法人税の12.9%
- 法人事業税:所得400万円以下の部分に3.4%
所得400万円を超え800万円以下の部分には5.10%
所得800万円を超える部分に6.7% - 地方法人特別税:事業税の43.2%
などがあります。
企業の所得に対して決められる税額は実効税率を掛けて計算されますが、上記の多くの租税を合計して決められるわけではありません。
実効税率は課税所得を基礎とする法人税、住民税、事業税で計算されますが、事業税や地方法人特別税は、課税所得の計算をする時に、支払い時に損金扱いとなることから、かなり複雑な計算式で計算しなければなりません。(計算式割愛します)
平成27年4月1日からの実効税率
大法人(資本金1億円以上)の法人税率:23.9%
中小企業の法人税率:年間所得800万円以下の部分は15.0%
年間所得800万円を超える部分は23.9%
これを基に実効税率の計算式に入れて計算すると都道府県により若干異なりますが、
実効税率は
・ 年間所得400万円以下の部分は21.42%(平成29年度からは22.09%)
・ 年間所得400万円を超え、800万円以下の部分は23.20%(平成29年度以後も同じ)
・ 年間所得800万円を超える部分は34.81%(平成29年度以降も同じ)
となります。
節税方法1 年間所得800万円以下の低い実行税率を使う
上記の実効税率を使います。例えば、仮に年間所得1600万円の中小企業法人が分社化により年間所得800万円の会社を2つにした場合(分かり易くするために)です。
分社化前の年間所得1600万円の会社の税額
- 年間所得400万円の部分 実効税率21.42% 856,800円
- 年間所得800万円の部分 実行税率23.20% 1,840,000円
- 残り年間所得400万円部分 実効税率34.81% 1,392,400円
計 4,089,200円
年間所得800万円の会社が2つです。
その税額
・年間所得400万円の部分 実行税率21.42% 856,800円
・残りの年間所得400万円の部分 実効税率23.20% 928,000円
計 1,784,800円×2=3,569,600円
分社化により差し引き519,600円の節税となります。安定的に利益が見込まれる場合には有効な節税方法です。
節税方法2 消費税を節税する
分社化した会社の資本金が1千万以下であれば2年間は消費税非課税の恩典があります。
事業の売上金額が2年間非課税になる、という意味です。また、分社化した新会社の設立後も前々年度の売上高が1千万円以下であれば非課税事業者となり消費税がかかりません。
節税方法3 交際費の節税
現行法では損金算入の交際費は800万円までです。分社化すれば、2社ならば1600万円まで費用として損金算入が可能です。
節税方法4 新会社設立時に現物出資で節税を行う
現物出資した現物は、会計上は費用として計上できるため減価償却が可能です。
新会社設立時に例えば、資本金の内訳として、現金50万円、現物出資100万円ならば資本金は150万円です。
資本金の1部として出資できる現物は色々ありますが、車30万円、PC20万円としたときは車、PCは減価償却可能です。ホームページ50万円の評価を付けて出資した場合は、ホームページは無形固定資産として減価償却が可能です。
但し設立時に定款に明細を記載しておかなければなりません。他にも現物出資できる現物は非常にたくさんあります。(ex 特許権、債権、土地、建物、構造物など)
まとめ
分社化は企業の成長過程で行われる企業戦略です。分社化の目的はそれぞれの企業によって様々ですが、1つの部署を分社化して、事業を特化し、さらなる成長を促す場合に一般的によく使用される手法です。
しかし企業収益の増大により課税される税金も徐々に増加していきますから、企業の節税も重要な業務となります。この節税の方法として分社化という手法が使われるわけです。
分社化という企業戦略の戦術の1つとして節税は極めて有効です。分社化する場合は、ぜひ公認会計士や税理士と、節税対策も含めて検討されることをおすすめします。