1月31日、最高裁第3小法廷で、相続税を減らすことを目的とした養子縁組が有効かどうか、が争われた訴訟の判決が下され、初判断が示されました。

参考:<相続税節税・養子縁組訴訟>有効の1審判決が確定 最高裁

今回はこの判決に関しての解説を行っていきます。

養子縁組訴訟の概要 有効判決

判決は、「節税の動機と養子縁組の意思は両立するため、節税が主な目的であっても縁組が無効とは言えない。」としています。

これは既に現行法において養子も相続人として認められており、それを追認した形ですが、争点は養子とは言え、相続税の節税を目的にした養子縁組であるから、本来の親子関係から逸脱しており縁組の有効性を認めることができるかどうか、という点です。

相続税法第63条には、養子を法定相続人の数に含めることで相続税対策をしていることが認められる場合には、数が1人又は2人であっても法定相続人の数に含めることができない。とあります。

これを今回の判決では、明確に有効である、と判決を下したわけです。初判断と言われる所以です。

娘2人が長男を訴える 訴訟の概要

今回の訴訟は、2013年に82歳で亡くなられた福島県の男性の相続を巡り、被相続人の父親の長男に対して、被相続人の長女と次女の2人が、遺産相続の分配金が少ないことを理由に訴訟を起こしたものです。

その原因は、長男の息子(被相続人の孫)を被相続人が死亡する前年に正規な養子にしていたため、法定相続人が実子3人と養子1人となっていたことです。被相続人の妻は既に亡くなっています。

亡くなった父親が長男の息子を養子にした理由の1つに節税対策があり、相続税節税のため、税理士と相談していた経緯があるようですが、孫にも相続させたい強い意思が被相続人にあったかもしれません。

いずれにしても、節税目的であることは縁組の無効になる「当事者間に縁組の意思がない場合には当たらない」として訴えた娘2人の側の無効請求を退けて、敗訴が決定しました。

もう少し詳しく説明しましょう。

裁判の対立構造は、長男+養子(長男の幼い息子)、対、長女+次女です。長女、次女側が長男を訴えたわけです。

長女、次女側の言い分は、長男の息子を父親の養子にしたのはいいのだが、法定相続人の1人としては認められないということです。認められない理由は先に述べた節税目的で養子縁組を行ったことです。

今回の訴訟のベースに、相続財産の遺産分割の問題があります。養子であっても当然法定相続分があります。相続財産の分割は、法定相続人3人(長男、長女、次女)の場合と法定相続人4人(長男、長女、次女、養子1人)では大きく異なります。これに長女、次女側が不満として訴訟を起こした構図となります。

基礎控除額は多くなる

相続税法改正により、基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)となり相続財産がこの基礎控除額の範囲ならば相続税はかかりません。相続税をこの基礎控除額を超えた部分にかかってきます。

この式で考えれば法定相続人が多ければ多いほど基礎控除額が増えて法定相続人が3人より4人の方が、納税額が少なくなります。

明らかに法定相続人が多い方が節税となり、これが今回の長男の息子を養子にした理由の1つでしょう。被相続人の当初の意図は達成されました。

しかし問題は遺産分割です

このケースでは、長男+養子(幼い息子)の相続分は相続財産の1/2です。娘2人の相続分は残り1/2を2人で分ける形になり、それぞれ1/4ずつということになります。

養子縁組訴訟で養子を法定相続人として認められない、という判決が出れば、法定相続人は3人となり、3人がそれぞれ相続財産の1/3ずつを相続することができます。

法定相続人の数が多ければそれだけ節税になるのですが、娘2人にとっては、それよりも自分たちの相続分が減ることの方が不満となって、今回の骨肉の訴訟となったわけです。

まとめ

養子縁組による節税対策はこれまで富裕層を中心に広く使われてきた方法です。

相続権を有する普通養子縁組件数は2015年度だけで82,000件もあるようです。しかし単に相続税の節税対策だけを目的にした養子縁組はあまり感心しません。

これまで、これを防止する税法もあるのですが、適用された前例がありません。税務署で、本当に節税対策だけの養子縁組なのかを判断する術がないからです。

養子縁組の制度は大変良い制度です。本当に税金逃れだけに使われるのは決して本意ではないでしょう。因みに、法定相続人の養子には相続税額の2割加算制度があり、2割余分に相続税を払わなくてはなりません。

参考記事:判決!相続税対策の養子縁組は「有効」~最高裁が節税を認めた!~