被相続人に負債などがあり、プラスの財産より負債の方が多い場合は相続放棄して、被相続人の負債から逃れることができます。

しかし相続放棄は家庭裁判所に申し立てることになり、手続きは簡単ではありません。少々難しい相続放棄の手続ですが、詳しく見ていきましょう。

相続放棄と財産放棄

なお、相続放棄と似ているような言葉に財産放棄があります。

相続放棄は上記のように家庭裁判所に申したてて、財産放棄が認められることにより、最初から相続人ではなかったとして扱う法律的な手続きのことですが、一方、財産放棄とは、相続人同士で相続財産を話し合いで決める手続きのことです。遺産分割協議書を作って、それぞれの財産について相続するしないを意思表示して明確に記載します。遺産分割協議書に借金は支払いなしと明記してあっても法律上、債権者からの請求を止めることはできません。

相続放棄をする理由

被相続人から受け継ぐ遺産は一般的にはプラスの財産ですから、相続人にとっては大きな恩恵を授かることになります。

しかし、折角の遺産でありながら、あえて相続放棄する人が少なくありません。相続放棄をする理由としては、被相続人から生前に贈与を受けていた。遺産を分割させたくない、という理由もありますが、プラスの財産よりマイナスの借金(負債、連帯保証債務)の方が多いことによる放棄が最も多いようです。また、相続人間の醜い争いに巻き込まれたくないので相続放棄する、と言う人もいます。

相続放棄の手続

相続放棄の手続は、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、被相続人の最終住所地を所轄する家庭裁判所に次の書類を提出することにより始まります。

  1. 相続放棄申述書(詳細は後述)
  2. 被相続人の戸籍の附票又は住民票の附票
  3.  相続放棄をしたい人(申述人)の戸籍謄本
  4. 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)(死亡通知提出後)
  5. 郵便切手(確認要)
  6. 収入印紙800円

以上の書類を所轄の家庭裁判所に提出すると、その後裁判所から照会書が届きます。

この照会書に記載しなければならない回答は非常に大切なことばかりですので、きちんと正確に記載して回答しましょう。なお照会書の質問項目はあらかじめ分かっていることが多いので、申述書提出後すぐに回答内容を準備しておくと時間の短縮となります。

そして、最終的に裁判所より相続放棄申述受理通知書が届きます。これで相続放棄の手続は全て完了です。

相続放棄申述書の書き方

相続放棄申述書の用紙は、お近くの家庭裁判所で手に入れることができます。また裁判所のHPからもダウンロード可能です。

相続放棄申述書の書き方(申述人が成人の場合)

◯申述人欄:相続放棄を行う人についての情報の記載。本籍、現住所、氏名、生年月日、職業、被相続人との関係を記載。申述人が未成年者の場合は、法定代理人蘭に親権者の情報を記載。

◯被相続人欄:亡くなった方(被相続人)についての情報を記載する。被相続人の本籍、最終の住所、死亡当時の職業、氏名、死亡日を記載。死亡日は相続が開始された日となるので戸籍や住民票を確認して間違いないように記載しましょう。

◯申述の趣旨蘭:「相続を放棄する」と記載する。

◯申述理由:相続の開始を知った日、放棄の理由、相続財産の概略を記載。相続の開始を知った日とは、被相続人が亡くなった日か又は、亡くなったとの連絡を受けた日で、相続放棄は相続の開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。

◯放棄の理由について:あなたが相続放棄をする理由を書く。
・ 被相続人から生前に贈与を受けている
・ 遺産を分割したくない。
・ 債務超過のため。
など、既に理由が印刷されて記載されている中にあてはめるものがあれば◯印を付ける。
当てはまるものがない場合は、その他の欄に記載する。

◯相続財産の概略について:被相続人が亡くなった時点で有していた財産を記載する。不動産、貯預金だけでなく、借金などのマイナスの財産も記載する。

◯相続放棄申述書の提出先:被相続人の最後の住所地(住民票の住所)を管轄する家庭裁判所に他の必要書類とともに提出する。但し相続人が住んでいる地域の家庭裁判所ではないので要注意のこと。申述書は相続人ごとに作成する。(以上の項目は裁判所のHPの情報を参考にしました)

裁判所URL 

相続放棄申述書を提出した後の流れ

○ 裁判所から照会書への回答:相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると申述人のもとに裁判所から照会書、回答書が届きます。照会書には概ね下記のような質問が記載されているので、回答書にその質問に対する回答を記載して家庭裁判所に返送しなければなりません。

○ 回答書の質問には主に次のようなものがあります。
・ 申述者の意思で相続放棄の申述がされているかどうか。
・ あなたが被相続人の死亡を知った日はいつですか。
・ 被相続人の遺産はどのようなものがあるのか。
・ 上記の相続財産の内、既に相続したものはありますか。「ある」と回答した時、相続財産の1部でも既に相続手続きをしてしまったら単純承認が成立して、相続放棄ができなくなる可能性がありますので認識しておいてください。
・ 上記相続財産の存在を知った日は。
・ 相続放棄の理由は。
・ 被相続人の生前の生活状況、経済状況は。
・ あなたと被相続人との間の連絡状況は。
・ あなたは相続人になったことを知った日から3ヶ月内の期間内に相続財産の有無や状況を調査しましたか。
・ 被相続人の死亡後3ヶ月が経過してからの相続放棄を申述した場合の回答。(3ヶ月以内の場合はこの質問はありません。)

家庭裁判所のホームページで相続放棄の審判手続きの項を参照しました)

回答書を提出し最終的に裁判所が相続放棄の申述を受理してくれると、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。

これで相続放棄の手続は完了です。

まとめ

被相続人が死亡してから3ヶ月経ってから相続放棄の手続をする場合は、相続放棄申述書、回答書の内容が少し異なります。被相続人が亡くなられて、3ヶ月経過してから、被相続人に多額の借金があったことが判明した場合、判明した段階で、相続放棄の申述書を裁判所に提出する人が少なくありません。

この場合でも種々の手続を経て認められる場合もあります。民法により定められた相続放棄は、内容的に難しいものではありませんが、遺産の調査や、相続人の確定、書類の取り寄せ、書類の作成にかなりの労力と時間を必要とします。

被相続人の死亡、遺産の存在の有り無しについて判明した段階で、相続放棄をする場合は、個人でもできないことはありませんが、結局のところ相続に強い弁護士に手続き一式を依頼する方がいいのではないでしょうか。

但し、費用がかかります。個人で全て行えば、数万円で済みますが、弁護士に依頼すると手続3ヶ月以内で約7~10万円、3ヶ月以上約15~20万円(いずれも参考値で,弁護士により異なります。)