キーエンス創業者の株式贈与で1,500億円の申告漏れ

巨額脱税かと、一時は新聞、テレビなどマスコミを賑わしたニュースがありました。結局脱税ではなく贈与税の過小申告による追徴課税であることが判明しました。すぐセンセーショナルにニュースを流すマスコミには困ったものです。

しかしこの贈与税の申告漏れですが、その流れが新聞等の情報だけでは今ひとつよく分かりませんね。もちろん専門家が読めばすぐに分かることではありますが、もう少し詳しく紐解いてみましょう。

キーエンス過少申告の概要

事件はキーエンスの創業者で現キーエンス名誉会長の滝崎武光氏が滝崎家の資産管理会社で非上場会社の「ティティ社」の転換社債を現物出資して、また別の「新会社」を設立しました。

この「新会社」の株を滝崎武光氏が滝崎家の長男滝崎武史氏に贈与しました。この時の贈与税の基になる株の評価が問題となったわけです。

長男滝崎武史氏が申告した金額を国税庁が過小申告とみなし1,500億円の申告漏れがあると判断して、追徴税額は過少申告加算税を含めて300億円にもなりましたが、滝崎氏は異議を申し立てることなく、即刻納税し。このニュースは終演となりました。

長男滝崎武史氏が申告した金額が何故過小申告とみなされたのか。

国税庁は長男滝崎武史氏が申告のもとになっている、贈与された株の評価が著しく低いものと断定しています。

相続税法は相続が贈与で取り扱った財産は、時価で評価して申告税額を算出する、と規定されています。非上場株式のような取引相場がない資産の価値については業種や事業内容が類似する上場企業の株価などを基に算定するよう通達で求めています。

但し規定に基づく評価が著しく不適当と認められる場合は国税庁官の指示で評価を改めることができると定めてあります。

長男滝崎氏は通達に沿って、新会社株を評価したと言っていますが、これに対して、国税局は滝崎氏の申告額を認めなかったため過少申告となりました。

新会社株の評価が極めて低いという認定ですが、この根拠になっているのが、新会社と前述のティティ社との関係です。新会社はティティ社の出資により設立された会社で、ティティ社を新会社が事実上実行支配している、というところがポイントです。

ティティ社はキーエンスの大株主でキーエンス株を17%(7,800億円相当)も所有しています。

新会社の株をどのくらいで評価して贈与税額を算定したのかは、非上場のため不明ですが、国税局はその贈与した株の評価を超高収益会社のキーエンスの大株主ティティ社を事実上支配している会社の株であることから、通常の評価と大きく異なる評価をした、と思われます。

まとめ

キーエンスの創業者で名誉会長の滝崎武光氏は長男の滝崎武史氏に新会社の株を贈与したのはいいのですが、その株の評価が国税庁の評価と大きく異なっていたわけです。

そのために莫大な追徴課税を収めることになりました。

わざわざティティ社とは別の新会社を設立して、キーエンスの大株主の会社のティティ社とは関係ないような、ごく一般的な普通の会社の株の評価で算定したようですが、これが目論見と外れたのでしょうか。うがった見方をしたくなるような事案です。

なにしろ株式会社キーエンスは、ここのところ業績の好調さが目立っています。売上高3,340億円に対して、営業利益は1,757億円で前年度比増加です。営業利益率51.6%という、日本でも最高の収益率を誇る、超優良会社です。

あまり一般には馴染のない会社ですが、機械、電気、電子関係の技術者や製造業に携わっている人なら誰でも知っている会社です。電子機器や各種センサー、計測器、タッチパネルなどのメーカーです。

新聞、テレビなどの経済ニュースは1度聞いただけでは、なかなか分かりにくいです。時々社説などで詳しく載っていますが、これまた経済の専門用語がいっぱい入っています。毎日溢れるような情報量ですから、素人でも簡単に分かるような情報の流し方はできないのでしょうか。