昨今、ある老人施設において虐待や殺人事件という誠に想像を絶する事件が発生しています。
終の住み家として財産をなげうって入所される方もいらっしゃいます。安心と安楽を老後に求めて入所しているのにご家族や現在入所されている方々にとっては不安や心配をあおるものとなります。
一口に老人施設といっても種類はいくつかあります。たくさんの経営母体となる企業がこぞって参加してチェーン店並みに全国展開している施設も多くあります。
今回はなぜこんな事件が起きてしまったのか?老人施設とはどんなところなのか?ご紹介させていただきたいと思います。
ただし施設名や個人名はわからないようにしています。批判ということではないことをご了承していただければと思います。
派遣看護師として老人施設に勤務
私は派遣看護師としてたくさんの老人施設で勤務してきました。本当にたくさんのところに勤務させていただきました。
外観が「ここはホテルなの?」というところから「ここは本当に老人ホームなの」?というところまでです。
外観が悪ければ悪いとか外観が良ければいいということではありません。問題は中身です。すなわちそこで入所されている方々を看護や介護をしているスタッフの質だと思います。
こちらが本当に脱帽したくなるような看護師や介護士の対応しているところもありました。その逆もありました。人間扱いしていないとまではいきませんがいくら認知症があるからといって乱暴な対応や聞いていて悲しくなるような言葉使いをしているスタッフもいました。
参考②:老人ホームでの救急搬送体験【老人ホームの派遣看護師】
参考③:老人福祉施設における看護師と介護士の役割・業務の違い
スタッフが虐待した可能性?
これはあくまでも私達ERスタッフや院内のケースワーカーの想像です。ERに障害者施設から救急搬送されてきた男性がいました。
三十代の方でしたが普段は歩くことはできますがその他の生活はすべて介助という知的障害がある方でした。
救急車で運ばれてきた理由は意識の状態が悪いということでした。
病院のストレッチャーに移され診察が諫早に始まりました。頭部に打撲痕があり背中や胸お腹や左右の足に皮下出血が点在していました。全身のチエックが始まり頭のCTで急性硬膜外血腫、それと古い頭蓋骨骨折、その他の部位にも古い骨折の跡が数箇所ありました。
なぜこんな怪我をしてしまったのか?本人に聞いてももちろんわかりません。
付き添いの介護士(看護師ではありませんでした)に聞いても「自分はただ意識が悪いから一緒に病院に行くように言われただけです。」を繰り返すばかりで詳細が全くわかりません。
詳細がわかる人を病院に来るようにその介護士に伝えました。
治療方針の第一選択は硬膜外血腫に対する手術でした。家族も来てくれて施設の責任者も同時に病院に到着しました。
その責任者の話は「ベッドから落ちた」とのことでした。
その他の怪我のことも尋ねたらやはり「ベッドから落ちた」というだけでした。
ベッドの高さも2m3mあれば話はわかります。でもそんな危険な高さのベッドはありません。頭の怪我に対してはなんとか説明はつきますがその他の怪我に対して説明はつきません。
当院の整形外科にも同じ障害者施設の方が続けて2人も原因がよくわからない怪我をして受診していることがわかりました。本人に聞いてもやはり知的障害が強く聴取ができなかったそうです。
病院は閉鎖的な施設ですが老人施設も閉鎖的なところです。入居している方の安全を考えて出入り口は施錠しているところも多くあります。外からは見えにくくなります。目撃者も外部の人ではなくその中で働くスタッフです。
なぜ老人施設などで虐待や殺人が起きてしまったのか?
理由はたくさんあります。まずスタッフの接遇の問題です。
言葉は悪いのですが勤務した老人施設などでは資格がない「その辺にいるおばちゃんなの?」というくらい接遇が悪い方もいました。それは認知症があるお年寄りにでさえ怒らせてしまい不穏にさせてしまうほどです。不穏になるとまた手がかかってしまいスタッフの負担になってしまいます。
資格を持たない介護士の接遇はどのように教育しているのかを知り合いの老人施設の施設長に聞いてみました。本社に一括に集めて集合教育を行うというものでした。これは施設によって様々ですね。
それと認知症という病気に対しての知識がないことでしょうか。昔は認知症と呼ばれる前に呆けと言われていました。そのメカニズムもだんだんわかってきています。もちろん今はネットなどが普及しているので勉強している介護士もいるかもしれませんが私の知っている限りはそんなに勉強している人はいませんでした。
認知症は病気です。看護する側も介護する側もその病態生理を簡単でもいいから勉強する必要があると思います。知識があれば少しは対応する術ができると思います。
なぜこんなことをお伝えするかというと介護は根気と優しさが必要な大変な仕事です。病気のことを理解していないと繰り返す言動に介護側がイライラしたりうんざりしたり場合によってはカッとなって乱暴な言葉使いをしてしまったりそれが虐待という身体的な暴力に発展してしまうということになってしまうのではないでしょうか。
介護する側の給料の安さもあげられています。給料は安いのに仕事は重労働。それにより退職者が出て少ない人数で介護するとストレスがたまりそのはけ口が入居している方となってしまうということを当院のリスクマネージャーの医師から聞いたことがあります。
もう二度と病院を含め施設において虐待や殺人などが起きないようになってほしいです。