相続税の税務調査で「聞かれるコト」と「調べられるコト」を解説します

申告書を提出し、税金を納めただけでは終わらないのが相続税です。

そう。税務調査を乗り切るまでは安心できません。

被相続人(亡くなった人)の生前に相続税対策をしたにもかかわらず、税務調査でひっくり返されることはよくあります。そうならないためには、税務調査でいったい何を聞かれ、何を調べられるかを知っておくことが重要です。

今回の記事では、税務調査で「聞かれるコト」「調べられるコト」について税理士の立場から解説していきます。相続税の税務調査で痛手を負わないための一助になれば幸いです。

 相続税の税務調査当日までの流れ

まず最初に、相続税の申告書を提出してから実際の税務調査までの流れを紹介します。

税務調査は相続税の申告書を提出してからおおよそ1年半から2年くらいまでの間に実施されるのが一般的です。申告を税理士に依頼されている場合は、まず税理士に調査したい旨の連絡が入ることが多く、皆様は税理士から調査実施の連絡を受けることとなります。

一方、税理士に依頼せずに自力で申告書を作成・提出した場合は、税務署から直接自宅に電話が入ります。

日程調整を経たうえで1日から2日、自宅で税務調査が実施されます。まれに特別調査と言って、連絡なく自宅に突然税務職員がやってくることもあります。

税務署サイドも、事前にさまざまな角度から申告した財産が少なく計上されていないかチェックしていますので、過去の所得から推測して財産の計上があまりにも少ないと見込んだ場合など、いきなり自宅にやってくるケースもあるのです。

相続税の税務調査で「聞かれるコト」

いよいよ調査当日です。

午前10時に自宅へ税務職員がやってきます。調査には通常2人1組でやってきます。質問する人と記録する人を分担するため、また納税者と後で「言った言わない」の事態とならないためです。

午前中を中心に、具体的に以下のようなことが聞かれます。世間話風な聞き方であってもちゃんと質問の意図がありますのでご注意を。

税務調査で聞かれるコト① 被相続人の生前の病状について

被相続人は比較的急に亡くなったのか、長い闘病生活をへて亡くなったのかなどが聞かれます。

急に亡くなったのであれば生前に相続対策があまりされていないケースが想定されますが、長い闘病生活の期間があれば生前に相続対策を施していることも十分に考えられます。

また、寝たきりだったのか、亡くなる前に意識があったかどうかもポイントです。いくら生前に贈与をされたと相続人が主張しても、財産をあげる人に意識がなければ生前贈与の成立そのものが危ぶまれます。

税務調査で聞かれるコト② 被相続人の経歴・居住地の移り変わりについて

輝かしい経歴であれば、単純に相続財産も多額であることが予想されます。逆に、経歴に反して相続財産が少ないのであれば、その理由が問われることになるのです。

また過去に住んでいた地域での預貯金や不動産の有無を探るため、今までの住所の移り変わりが聞かれることもあります。

税務調査で聞かれるコト③ 被相続人の性格や趣味について

被相続人の性格と生前の所得税申告を照らし合わせて、相続財産の計上漏れがないかを探るために、被相続人がどんな性格の人であったか聞かれます。

奥様が調査時に「うちの主人はほんと真面目でお金を使わない人でした…」と言っているにもかかわらず申告されている相続財産が少ない場合、財産の計上漏れを自ら言っているようなものですよね。

逆に、派手な性格でよく飲みに出かけていた人であればいくら稼いでいても財産は残っていないかもしれません。また趣味についても聞かれます。ゴルフ好きな被相続人ならゴルフ会員権、美術が好きな相続人なら書画や骨董品があるのでは?ということを探るためです。

相続税の税務調査で聞かれるコト④ 配偶者・子どもの財産と収入について

被相続人の配偶者や子どもは、収入が少ないのに多額の財産を持っていては不自然です。

税務調査前に、税務署は被相続人の配偶者や子どもの預貯金や証券口座の残高について、既にある程度は調査済みだと思っておいてください。すべてではないにしても、少なくとも被相続人が所有していた口座と同じ銀行の口座は調査済みであることが多いです。

収入がないにもかかわらず多くの財産を持っている配偶者がいれば、過去にその配偶者が相続で財産を引き継いでいない限り、名義財産の可能性が強まります。

名義財産とはもともと被相続人の収入等により作られた財産であるにもかかわらず名前だけ家族名義などになっている預貯金などを言います。

もちろんこれが発覚すると被相続人の財産として相続財産に加算され、多くの追徴税額を支払うこととなります。ですから配偶者や子どもの財産と収入状況に矛盾がないかを探るためこのようなことが聞かれます。

相続税の税務調査で「調べられるコト」

税務調査はもちろん質問だけではなく、税務職員が実際に自宅を調査します。思わぬ落とし穴にはまらないように、事前に何が調査されるのか知っておくことが重要です。

相続税の税務調査で調べられるコト① まず家にあるものを一通り物色

相続税の税務調査では、まず家の中を一通り見回します。

高級な絵画や掛軸、時計や貴金属などの有無はもちろんですが、金融機関のカレンダーや粗品がないかなどを見ています。カレンダーや粗品のある金融機関とは取引があることが一般的ですから相続財産としての計上があるかどうかがチェックされるのです。

また倉庫などがあれば当然見せてくださいとなります。お宝が眠っているかもしれませんので。

相続税の税務調査で調べられるコト② 生前に所有していた名刺や手帳

これも①と同様、名刺や手帳のメモに登場する金融機関などがあればその金融機関との取引の可能性があるため、「見せてください」と要求されることが多くなります。

また手帳は被相続人の筆跡を知る上でも重要な資料となります。家族名義の預金や証券口座であっても被相続人が申込書を書いている場合もよくあります。印鑑まで被相続人の使用している印鑑であれば、勝負ありです。名義財産(被相続人の財産)として相続財産に加算されることとなり、多額の追徴税額を支払うことになるでしょう。

相続税の税務調査で調べられるコト③ 金庫やタンスの引き出し

家に大きな金庫などあればほぼ100%「中を見せてください」となります。

金庫までないにしても重要書類や印鑑を管理しているタンスの引き出しなどがあるはずです。調査部屋として提供した部屋以外にそれがあれば、調査官もついてきた上で「この引き出しごと調査部屋まで持ってきてください」となります。

当然中に入っているものはすべて見られる覚悟をしておいてください。

相続税の税務調査で調べられるコト④ 被相続人が使用していた印鑑

被相続人が使用していた印鑑は全て出すように要求されます。

そして白紙の紙に次々印鑑を押していきます。1回目は朱肉をつけず押します。最近の使用の有無が分かるからです。2回目は朱肉をつけて印影の確認をします。

家族名義の預金として相続財産に計上していなかった預金があるとします。その届出印と被相続人がいつも銀行印として使用していた印鑑が同じであれば、「この預金、被相続人さんが作られた預金ですよね?」となるわけです。

銀行口座を開設するときなど印鑑についてあまり意識しない方が多いと思いますが、財産の実質的な所有者を判定する相続税の実務ではとても重要な要素となります。生前贈与で預金口座を開くときにはこのことを決して忘れないでください。

税務調査で指摘を受けない方法はコチラの記事を参考にしてください
>>相続税の税務調査~税務署長はもう一人の相続人!!~

税務調査には税理士の立ち会いが必須です。

相続税の申告を税理士に依頼した場合は通常、申告をした税理士が調査に立ち会ってくれます。

ところが、税理士に依頼せず自分の力で申告した結果、税務調査の対象となった場合はピンチです。税務調査に来る2人1組の調査官はプロですから、素人だけで対応して太刀打ちできるはずがありません。

税務調査に当たったら、必ずすぐに税理士に立ち会いを依頼しましょう。

「相続税の税務調査~税務署長はもう一人の相続人!!」でも書きましたが、平成27年度の統計では税務調査の対象となった80%超が申告漏れを指摘されています。その平均追徴額は489万円です。

平均で500万円弱持っていかれるのですから、素人だけで立ち向かったらどんなことになるのでしょう。。。調査官のカモにされるのがオチです。

逆に、税理士の対応の仕方により相続税の金額が大きく変わることが多いです。申告の修正が必要になっても、追加で支払う税金の種類や金額は、税理士の説明力や交渉力次第といえます。

ようは、税理士がどれだけうまく調査官と話をつけてくれるかにかかっているのです。
税務調査には必ず税理士に立ち会いをお願いしましょう。

ただし、税理士なら誰でもいいわけではありません

相続税の税務調査の経験が豊富な税理士がいったいどれほどいるでしょうか?ほとんどの税理士が未経験です。

税務調査の立ち会いは必ず「相続専門の税理士」に依頼しましょう。

「一般的な税理士」は、「相続税もやってるよ!!」と言いながら、法人税や所得税を専門としている場合がほとんどです。法人税や所得税の税務調査と、相続税の税務調査では全くジャンルが違います。(相続税にはそもそも帳簿がありませんしね。。。)

税理士といっても、「相続専門税理士」でなければ相続税の税務調査では頼りになりません。必ず相続税の税務調査の経験が豊富な「相続専門税理士」に立ち会いをお願いしましょう。

では、相続専門の税理士を探すにはどうすればいいか?プロの税理紹介エージェントの税理士ドットコムに依頼することが安心です。特に税理士選びに時間をかける余裕がない場合にはおすすめできます。

相談内容欄が自由に記載できるため、記載した条件に応じた税理士しか紹介されません。探したい地域から条件に合う税理士をスムーズに紹介してもらえます。

税理士ドットコム自体は何度でも無料で利用できますので、税理士探しの一助としてください。

まとめ~相続税の税務調査~

以上、相続税の税務調査で聞かれるコトと調べられるコトの実態について紹介させていただきました

いかがでしたか?
まだまだ書ききれないことがたくさんありますが、税務調査とは税務調査官があの手この手を使って財産の計上漏れがないかを探す作業です。

特に印鑑や被相続人の筆跡などは、財産の実質的な所有者を判断する重要な手がかりです。

税務調査が始まってからジタバタしてもどうしようもありませんので、むしろ税務調査で聞かれたり調べられることを生前贈与を始めとする相続税対策の注意点として役立ててください。特に印鑑は重要ですよ!

顧問税理士がおられる方は生前贈与等の相続税対策をする前に必ず相談してください。税務調査経験のある専門税理士であればこれらの事をしっかり教えてくれるはずです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。