相続税申告の体験談~財産は母だけに相続させるつもりだったが~

実際に相続税申告を経験した方の体験談を紹介します。

体験者は、父親の財産は全て母に相続させるつもりでしたが、税理士からの思わぬ提案により遺産分割協議が難航しました。

また、3人兄弟それぞれが仕事が忙しく遠方に住んでいるという点も、申告に時間がかかった原因となったようです。

同じような境遇のかたや、同じような考えの方は多いのではないでしょうか。

第二次相続までをしっかり想定した相続税対策の重要性が感じられるかと思います。

リアルな体験談です。ぜひご一読ください。

相続の開始~父の財産は全て母が相続することで合意~

私の父(78歳)が亡くなった時の話です。

父の葬儀が一通り落ち着き、財産分与の話になりました。

私には兄が2人いるのですが、私たち兄弟は父の財産は母がすべて取得すればいいと考えていました。

父と母が2人で築いた財産なのだから母が元気なうちは自由に使えばいいと思ったのと、配偶者の取得は1億6千万円まで税金がかからないという記事をインターネットで見たからです。

母も含め全員異議はなく、母が財産のすべてを相続することで意見はまとまりました。

ただ、相続税がかからなくても、自宅の登記変更は必要です。兄2人は実家からかなり離れた場所で世帯を持っており、母も高齢であまりあちこち出歩くのは困難な為、私が登記等の手続きを一任されました。

税理士からの思いもよらない提案

まず一番初めに困ったのは、どこで誰に相談すれば良いのかということです。税理士さんなどの専門家の知り合いがいればいいのですが、私の周りにはおらず、とりあえずお世話になった葬儀屋さんに尋ねてみようと考えました。

連絡してみると、さっそく翌週中にその葬儀屋さんと提携している税理士さんと司法書士さんに会うこととなりました。

そして翌週、税理士さんと司法書士さんが実家に来られたのですが、税理士さんから思いもよらない話を聞きました。

「二次相続のことを考えると、ご兄弟の皆さんも今回財産をもらっておいた方が節税になりますよ。」

つまり、今回は母が全て財産を相続しても相続税はかからないが、その分母の財産が増えるため、将来母が亡くなったときの相続税が増えてしまうとのこと。それであれば、今回少し相続税を支払ってでも私たち兄弟が財産を取得した方が、通算すると節税になるとの提案でした。

相続手続きの大変さ~銀行口座の名義変更に手間と時間が~

さっそく兄2人に電話をして家族でもう一度話し合いたいと言ったのですが、2人とも仕事があるので当分実家には帰れないと言われました。

相続税の申告期限は死亡から10か月以内ということで、それまでには必ず全員集まって話し合うことを約束し、遺産分割の案は私と母の方で考えることになりました。

ここからが大変でした。

まずは父名義の銀行口座の名義変更。これが思ったより時間のかかる作業でした。司法書士さんに代行してもらうことも可能だったのですが、それなりの手数料をとられてしまうので、父の戸籍謄本などの収集から、各銀行への手続きまで私1人で行いました。時間も手間もかかり、本当に毎日くたくたでした。

さらに、税理士さんとの分割案の作成です。第二次相続(母が亡くなった時)のことまで考えるということで、なんとなく母に相談できない自分もいて、かなり悩んでしまいました。

そう簡単に終わらない~分割案に納得してもらえない~

父の死から7か月後、ようやく分割案ができたので兄2人も実家に呼び、話し合いをすることになりました。順調にいけば、ここでみんな承認して印鑑をつき、相続税の申告、登記の手続きを税理士さんと司法書士さんに任せて終了のはずでした。

しかし、そう簡単にいきませんでした。

税理士さんより、実家部分は母と同居している私が取得するのが最も有利ということで分割案を作成してもらっていたのですが、そこが兄2人は納得できないとのことでした。

もちろん、私の独断で決めたわけではなく、それぞれの兄には電話で伝えていたのですが、いざ印鑑をつくとなると、いろいろ思うことがあったようです。

結局その日では、遺産分割協議はまとまらず、兄2人はそれぞれの自宅に帰っていきました。

ようやく解決へ

相続税の申告期限はどんどん迫ってきます。兄には電話で話をしても埒が明かないので、私はそれぞれの兄のもとへ出向き話をしに行くことにしました。

そこでは、第二次相続まで考えた税理士さんの提案を改めて伝え、期限まで2週間を切った頃、ようやく2人ともに納得してもらえました。

そこからは、遺産分割協議書を郵送でやり取りし、捺印をもらい、税理士さん、司法書士さんに申告等を行って頂きました。

正直、私の家が相続でこんなに時間がかかるとは思ってもいませんでした。

兄弟の仲も悪いわけではなかったのですが、こんなことになるのなら父に遺言を書いておいてもらえばどれだけ良かったかと何度も思いました。

一生に数回しか起こらないことだけに、相続で財産をもらう方も渡す方も事前に対策をしておくべきだと感じました。

考察~体験談から考える相続税対策~

いかがでしたでしょうか。

この体験談から感じることはそれぞれ異なるかもしれませんが、少なくとも以下のことが言えるのではないでしょうか。

  • 第二次相続まで想定した節税と遺産分割を考える必要がある
  • 相続税申告には細かな作業に想像以上の手間と時間がかかる
  • 生前から専門税理士に相談しておくべき
  • 家族皆が健康なうちから、遺産分割についての準備をしておくべき

「うちの家族は相続で困ることなんかない」と思っている家族ほど、相続税申告に思わぬ苦労を強いられます。

なぜなら、事前に相続税対策を実施していないからです。

今回は、葬儀屋さんに相談したところ税理士を紹介していただいたというのも、なかなかリアルな体験かと思いますが、父の生前から、税理士も交えた相続税対策を実施していれば、そもそも「母に財産の全てを相続させる」という考えには至らなかったはずです。

相続税対策で最重要なことは「できるだけ早くから家族で相続について話をする」ことです。
その際、できれば相続を専門としている税理士も交えて話ができればベストです。

家族が死亡してから相続について考えるのではなく、家族皆が元気なうちから相続について考え、節税や遺産分割の準備をしておくことが最も重要なのです。

このサイトは「相続や税金について詳しくない方が、相続税対策のスタートを切れるように」という目標を持って作成しています。

皆さまにとって少しでもお役に立てれば幸いです。