生前贈与は、相続税を節税する最も基本的な方法です。
手続きも簡便なため、実際に多くの方が子どもや孫に毎年贈与を行っています。
ところが贈与には「贈与する人と受ける人相互の意思表示」が必要となるため、いくつかの注意が必要です。
注意点を理解しないまま贈与を実施していると、税務調査において「贈与」とみなされず、せっかくの相続税対策が台無しとなることが頻繁にあるのです。
また、生前贈与を「いつ実施するか」「いくら実施するか」もポイントです。
相続直前に慌てて実施しても効果はありませんし、一度に多額の贈与をすると贈与税が莫大にかかり逆効果です。
この記事では、生前贈与をできるだけ効果的な相続税対策とするために注意すべき点を紹介していきます。
そもそも生前贈与って何?という方は先にコチラをご覧ください
>>「生前贈与を今年から始めよう!~これから相続税対策をする方へ~」
相続税対策としての生前贈与
まず「相続税対策としての生前贈与」という意味を簡単に説明します。
相続税は、遺産(死亡する時に持っている財産)を引き継いだ人が支払う税金です。
引き継いだ遺産が多いほどかかってくる相続税は当然大きくなります。
したがって、生前に財産を贈与しておくことで遺産(死亡する時に持っている財産)を減らし、将来の相続税の負担を軽減させることができるのです。
これが「相続税対策としての生前贈与」です。
死亡する前に財産を少しでも減らしておいて、相続税を節税するというとても単純な方法ですね。
ところが、税務調査において「それは贈与と認められない!」と指摘され、結果的に相続税対策として全く意味をなさなかったという事例は多々あります。定番なのです。生前贈与を否定されると、それまでやってきた相続税対策がパーになり、想定よりもはるかに多額の相続税がかかってしまいます。
では、税務調査で否定されない生前贈与にするには、どのような点に注意すればいいのでしょうか?
以下では、生前贈与でよくある失敗を例に出しながら、注意すべき点を紹介するとともに、より効果的な相続税対策とするためのポイントを記載していきます。
注意点① 現金の手渡しではなく銀行口座を利用して贈与すること
自分が行った生前贈与が、税務調査において「贈与と認められない」と言われないためには、誰が見ても贈与を行ったという、疑いようのない証拠を残すことが重要です。
その意味で、現金を贈与する場合、手渡しで行うよりも銀行口座を利用する方が、贈与を行った金額や日付が明らかに証拠として残るため贈与の方法としては得策です。
生前贈与には、その内容を第三者に説明できる証明力を持たせることを意識しましょう。
注意点② 印鑑と通帳は贈与された人が管理すること
自分の口座から子どもや孫の口座にお金を振り込んでいても、「その口座を実質的に誰が管理しているのか」という点を税務調査ではチェックされます。
これを、名義預金(名義だけを借りて預金しているにすぎないこと)のチェックといいます。
例えば、生前贈与として、親が子どもの口座にお金を振り込んでいたとしても、実質的には贈与されたお金を子どもが自由に使えなかったり、子どもの口座自体を親が管理している場合は「名義預金」とみなされ、生前贈与として認められません。
このような事態を防ぐための注意点は、贈与を受けた人の口座の印鑑と通帳は、必ず贈与を受けた人が管理することです。
贈与された現金や預金は、贈与を受けた人が自由に使える状態でないと贈与とは認められないのです。
よくある失敗事例は、子どもの口座開設の際に親の印鑑を取引印として利用してしまうことです。これでは実質的に口座は親の管理下にあるとみなされ、贈与とは認められません。
ひとたび贈与をした金額は、贈与をした人の管理下から明確に離さなければならない点が注意です。
「名義預金」とみなされてしまった方の体験談はこちら
>>「相続税申告の体験談2~名義預金に相続税がかかってしまうなんて~」
注意点③ 贈与の契約書を作成すること
注意点①でも記載しましたが、生前贈与が税務調査において認められるためには、誰が見ても贈与を行ったという証拠を残すことが重要です。
その意味で、贈与契約書を作成しておくことはとても有効な証明手段の1つとなります。原本を2部作成し、贈与をする人と贈与を受ける人がそれぞれ1部ずつ保管しましょう。
贈与契約書の書式は自由で、パソコンで作成しても手書きで作成しても問題はありませんし、印鑑は実印でもなくても有効です。(通常は実印ですが。)
また、不動産を贈与する場合は印紙が必要ですが、お金や株を贈与する場合は印紙を張る必要はありません。
贈与契約書の記載事項
贈与契約書には最低限記載すべき事項をきちんと盛り込む必要があり、それが抜けてしまえば契約書の不備として、契約書そのものの効果がなくなる場合もあります。
不備のない契約書を作成するためには、専門家に依頼することがおすすめですが、自分で作成する方は必ず以下の5つを契約書の記載内容に盛り込みましょう。また、贈与を受ける人が未成年である場合は、贈与を受ける人だけでなく、その親権者の記名・押印が必要となります。
- 誰が誰に贈与するか
- いつ贈与するか
- 何を贈与するか
- どのような条件で贈与するか
- どのような方法で贈与するか
注意点④ 毎年同じ時期に同じ金額の生前贈与は避けること
贈与税の計算上、1年間に110万円までならば、贈与を受けても贈与税は一切かかりません。
贈与税の計算方法はこちら⇒「贈与税の計算方法と計算表」
ですから、例えば長男に対して、毎年1月に110万円の贈与を10年間行えば、110万円 × 10 年= 1,100万円の財産を無税で長男に贈与することができます。
相続税の税率は10%~55%ですので、仮に相続税率を30%とすると1,100万円 × 30% = 330万円の節税になるのです。
ところがここに落とし穴があります!
毎年同じ時期に同じ金額の贈与を行うと、「実態は一括で財産を贈与した」とみなされる可能性が高いのです。
これを「連年贈与」といいます。
「連年贈与」をみなされると、せっかく長期間にわたって少しずつ贈与をしたものが一括で贈与をしたとみなされ、多額の贈与税がかかってしまいます。
上の例でいうならば、毎年110万円の贈与を10年間行ったのではなく、1,100万円の贈与を一括で行ったとみなされ、贈与税が200万円ほどかかってしまいます。
連年贈与とみなされないためには、以下のようなちょっとした工夫をすることが大切です。
贈与を実施する月と金額をバラバラにする
毎年同じ時期に贈与を実施すると「連年贈与」とみなされやすいため、贈与を実施する時期は毎年バラバラにずらしたほうがいいです。
また、毎年110万円ピッタリを贈与するのではなく、今年は100万円、来年は105万円といったふうに、毎年の贈与額もバラバラにずらした方がいいでしょう。数年に一回は110万円を少し上回る贈与をし、少額な贈与税を支払うことも「暦年贈与」とみなされない定番のテクニックです。
たまには現金以外の財産を贈与する
毎年現金を贈与するより、今年は現金を贈与して、来年は株式を贈与するといったふうに、異なる財産を贈与することで「連年贈与」ではないとのいう証明になります。
毎年毎年違う財産を贈与するのは難しいでしょうから、たまには現金以外を贈与するなど意識すればよいでしょう。
贈与契約書は毎年の贈与ごとに作成する
せっかく贈与契約書を作成しても、「毎年○月に○○万円を贈与する」という記載内容では、「連年贈与」だと自ら主張しているようなものです。
贈与契約書は必ず、贈与を実施するごとに作成しましょう。一度作成すれば手間はそんなにかからないでしょうから、手を抜かずに毎年作成しましょう。
注意点⑤ できるだけ早くから長期間にわたって贈与すること
相続税を節税するために生前贈与を実施する場合、最も大切なことは「できるだけ早くから取り組む」ことです。
「うちのおじいちゃんは相続の話なんてすると気を悪くしないだろうか。まあ、まだ元気だしいいか。。」と言って、相続直前になるまで何ら対策をしない場合が本当に多いです。
相続税法上、相続開始日(亡くなった日)前3年以内に贈与した財産は、贈与がなかったものとみなされ相続税がかかります。つまり、亡くなる日の前3年以内に生前贈与しても、相続税を節税する効果はありません。
また、相続税を節税するために一度に多額の贈与を実施すると、将来の相続税は減りますが贈与時にそれ以上の贈与税がかかってしまいます。
相続税対策として生前贈与を成功させるカギは、長期間にわたって少しずつ贈与をすることです。
生前贈与を実施する金額はコチラの記事を参考にしてください。
>>「生前贈与は毎年いくら実施すべきか~限界まで相続税を節税する贈与額~」
財産を相続しない人への贈与であれば、死亡前3年以内の贈与でも節税効果があります。例えば子どもがいる場合、「孫」は相続人ではありません。遺言等で孫へ財産を相続させる場合を除き、孫に対する贈与は相続直税でも相続税の節税効果があります。
注意点⑥ 複数の人から贈与を受ける場合は合計額に贈与税がかかる
贈与税の計算でよくある勘違いについて記載したいと思います。
注意点④でも記載しましたが、年間110万円以下の贈与には贈与税は一切課税されません。
しかし、贈与税はもちろん、贈与を受けた人が支払う税金です。そのため例えば父親から110万円、母親から110万円を同じ年に贈与されていたら、合計220万円の贈与を受けたこととなり、贈与税がかかってしまうのです。
贈与をする人は、相手が自分以外の人からも贈与をされているかどうかを把握したうえで実施しなければ、想定外の事態になることがあるため注意が必要といえます。
注意点⑦ 税務調査には必ず税理士に立ち会ってもらうこと
税務調査が決定した場合、調査に対応するためには、税理士に立ち会いを依頼することが必須といえます。
相続税の税務調査は、通常二人一組のプロの調査官が被相続人(亡くなった人)の自宅に来て行われます。はっきり言えることですが、素人だけでプロの調査官に立ち向かうのは避けてください。専門外のことを、専門家と話したところでいい方向に向かうはずがありません。
国税庁のHP公表評されていますが、平成27年度の統計では税務調査の対象となった81.8%が申告漏れを指摘され、その平均追徴額は489万円です。(税務調査の対象となったら8割の確率で500万円弱持っていかれるのです)素人だけで立ち向かったらどんなことになるのでしょう。。家の隅々まで見られ、根こそぎ持っていかれるのがオチです。
逆に、税理士の対応の仕方により、相続税の金額が大きく変わることが多いです。また、申告の修正が必要になっても、追加で支払わなければならない税金の種類や金額は、税理士の説明力や交渉力次第と言っても過言ではありません。
ようは、税理士がどれだけうまく調査官と話をつけてくれるかにかかっているのです。
税務調査には必ず税理士に立ち会いをお願いしましょう。
ただし、税理士なら誰でもいいわけではありません
相続税の申告を税理士に依頼していた場合、税務調査の立ち会いは申告を依頼した税理士にお願いするのが通常です。実際に申告書を作った税理士が税務調査の立ち会いをするが当然でしょう。
一方、税理士の力に頼らずに自分の力で相続税の申告書を作成した場合、税務調査の立ち会いを依頼する税理士を探さなければなりません。(そもそも税理士に頼らず申告した場合は申告書に税理士の捺印がないため、税務署の目にとまりやすいのです。。。申告から税理士に依頼する方が本来は賢明です。)
このとき、税務調査の立ち会いは必ず「相続専門の税理士」に依頼しましょう。
「一般的な税理士」は、法人税や所得税を専門としている場合がほとんどです。法人税や所得税の税務調査と、相続税の税務調査では全くジャンルが違います。(相続税にはそもそも帳簿がありませんしね。。。)
税理士といっても、「相続専門税理士」でなければ相続税の税務調査の経験が少なすぎて頼りになりません。必ず相続税の税務調査の経験が豊富な「相続専門税理士」に立ち会いをお願いしましょう。
では、相続専門の税理士を探すにはどうすればいいか?プロの税理紹介エージェントの税理士ドットコムに依頼することが安心です。相談内容欄が自由に記載できるため、記載した条件に応じた税理士しか紹介されません。探したい地域から条件に合う税理士をスムーズに紹介してもらえます。
税理士ドットコム自体は何度でも無料で利用できますので、相続について不安があれば上手に利用しましょう。
まとめ~生前贈与を効果的な相続税対策とするために~
以上、生前贈与の注意点について紹介しました。できるだけ具体的に書こうとしたため少し長くなってしまいましたね。。。
改めて生前贈与の注意点をまとめると
- 現金の手渡しではなく銀行口座を利用すること
- 印鑑や通帳は贈与された人が必ず管理すること
- 贈与契約書を作成すること
- 「連年贈与」とみなされないよう工夫すること
- 出来るだけ早くから長期にわたって贈与すること
- 複数人が一人に贈与すると合計額に贈与税がかかること
- 税務調査には相続専門税理士に立ち会ってもらうこと
生前贈与は、数ある相続税対策の中で、最も基本的かつ簡便な相続税対策です。
この簡便さを甘く見て、大きな失敗をしないように心がけなければなりません。
逆にいえば、注意点を理解してちょっとした手間や努力を行えば、生前贈与は必ず効果的な相続税対策となります。
現時点で何ら相続税対策を実施していない方は、まずスタートとして生前贈与から実施してみてはいかがでしょうか。
その際、今回紹介した注意点が、少しでも参考になれば幸いです。