介護の世界の身体拘束の実態とジレンマ【身体拘束がゼロになる日】

身体拘束という言葉を聞いたことがあると思います。意味は説明をするほどではありませんよね。看護の仕事をしていると必ずこの言葉を耳にすることがあります。

看護の世界における身体拘束とは

私がまだ准看護師の頃ある県の山の中にあり人里離れた精神科と老人の認知症の方が多く入院している病院に非常勤として勤務していたことがありました。

老人内科的な病棟ですが認知症(当時はまだ痴呆とかボケとか言われていました。)の方がほとんどでした。今では信じられないのですが、食事が終わると自室誘導や排泄介助になるわけですが、資格を有しないヘルパーさんが買い物カゴになにやらたくさんひものようなものを入れて部屋を回っていました。

オムツをつけている患者さんがほとんどで普通の病衣ではオムツを自己抜去してしまうのでつなぎを着用させて簡単にオムツ外しをできないようなことをしているのは知っていました。

ところが、ヘルパーさんが二人一組みで一人一人オムツ交換が終わったら患者さんの体を縛っているのです。ある人は両手を、ある人は両手と胴回りを縛られていました。「眠剤を飲んだ後おとなしく寝てくれればいいけど一人で歩いて転んだら大変だからね」という会話が聞こえました。

たしかに間違ってはいません。患者さんたちはひどい認知症なので自分が何をされているかわかりません。でも転倒やその他が原因で大怪我や不測の事態になり患者さんの命が危なくなるよりは身体拘束もありかな?と思いましたが、非人道的とも言える行為とも感じました。もし身体拘束をされているのが自分の父親や母親だったらと思うと許せませんし哀しくなってしまいます。考えさせられました。

現在の身体拘束事情 同意書が必要

現在では身体拘束の目的、アセスメント、必要性、家族や患者さんからの同意が必要です。患者さんの状態が今どのような状態でどんなリスクがあるのか?例えば眠剤服用後の転倒リスク、転倒したらどのようなことになってしまうのか?術後に挿管チューブの自己抜去の可能性がどのくらいあるか、ドレーンの自己抜去やあやまって抜けてしまうことはあるだろうか?繰り返し定期的にアセスメントを繰り返し必要最低限の抑制をします。

昔のように認知症があるから、勝手に出歩くからとこちら側の都合で患者さんの身体拘束はしてはいけないことになっています。今勤務している病院の身体拘束の流れを説明すると入院が決定となると年齢や患者さんの精神状態や病状を主治医が身体拘束が必要か?必要ではないかを判断します。

身体拘束が必要な場合は家族や患者さんに説明して同意を得て同意書にサインをもらいます。万が一身体拘束をすることが発生してしまった場合は必要最低限にして拘束を行った部位の観察(皮膚トラブルや神経障害)を定期的に行います。身体拘束をした場合は家族に連絡をしなければならないので丁寧に身体拘束を行った経緯を説明しなければなりません。そして身体拘束が解除できる状態になってきたら速やかに解除をしなければいけません。

これが大まかな身体拘束の流れになります。

身体拘束は非人道的?

結果からいえば非人道的になるのではないかと考えます。医師、看護師、総理大臣でも患者さんを身体拘束をする権利などは持ち合わせていません。身体拘束を廃止・ゼロにする運動もされているようです。

しかし患者さん自身に不利益なことが発生してしまった(転倒による骨折、頭部打撲による急性硬膜下血腫、脳挫傷、急性硬膜外血腫など。)手術をしなければいけないような外傷を負ってしまったことがあれば場合によっては家族から訴えられることもあるのです。

身体拘束は本当に必要なのか?

結局は身体拘束か?身体拘束をしないで転倒や管などの自己抜去あるいは事故抜去のリスクを負いながら仕事をしていかなければいけないのか?どちらが最適なのかは未だに分からず流されるまま身体拘束の許可は得ているとはいえジレンマがいつまでたっても絶えません。

これは看護師と患者さんとの永遠のテーマかいつかどこの医療機関でも身体拘束0の日がやってくるのでしょうか?