高度な気道確保の方法として気管内挿管という方法があります。
文字の通り経口あるいは経鼻から気管内チューブを入れて気道の確保をして身体の酸素化を狙います。
この気管内挿管は高度な技術が必要です。迷走神経反射や歯牙欠損という合併症も伴い現行法では生命徴候がある人に対してできるのは医師しかいません(心肺停止の方にオンラインで医師の指示があれば救急救命士が出来ますが心肺停止と医師の指示がないとできません。)。
将来私たち看護師もこの気管内挿管ができる日が来るかもしれませんがまだまだ議論の余地があり時間がかかりそうです。
もしですがこの気管内挿管をしている患者さんの看護をしていて何らかの原因で気管内チューブが抜けてしまった場合どうなってしまうでしょうか?
事故抜管、自己抜管いずれにせよアクシデントとなり人口呼吸管理ができなくなり=患者さんの死に直結してしまいます。一刻を争う緊急事態なのです。
私も長いこと看護師をしていますが一回だけこの自己抜管に出くわしてしまいました。
しかしこの自己抜管、事故抜管は何の前触れもなく突然発生してしまいます。万が一そのようになってしまったらどうすればよいのか?私の経験も含めてお話をさせていただきます。
自己抜管とは事故抜管とは
この自己抜管は患者さん自身が気管内に挿入しているチューブを抜いてしまうことです。
事故抜管は患者さん自身が自分で抜いてしまう自己抜管に対して管理する側の何らかの原因で気管内チューブが抜けてしまうことを事故抜管と言います。
自己抜管されてしまった!
次にお恥ずかしいお話ですが私が患者さんに自己抜管されてしまったお話をお伝えいたします。あまり世に出したくないお話なのですが少しでも自己抜管、事故抜管の防止につながればと強く思っています。
私がまだ看護師になりたての頃4床のICU(集中治療室)の夜勤をしていた時でした。Uさんという60代後半の患者さんが経口より気管内挿管されている脳幹梗塞の患者さんがいました。
脳幹梗塞で呼吸抑制を呈してしまったので挿管して人工呼吸器管理をしていました。意識がしっかりしていたのでチューブの違和感を筆談や身振りで強く時々訴えていました。
当時の脳外科の担当医の方針で意識レベルがわからなくなるから鎮静は行わない方針でした。
私たちも自己抜管を恐れていたので両上肢の抑制を行っていました。当時は患者さんの抑制は危険がある場合やその恐れがある場合はしばしば行われていました(現在は患者さんや家族に十分なインフォードコンセントを行い同意書にサインをいただき必要最低限に行います)。
チューブが口に入っているので話ができません。声かけに対してうなずいたりすることでコミュニケーションは良好でした。両上肢のみご家族や本人から許可を頂き抑制をさせて頂いていました。
一瞬の出来事
手の抑制がきついからはずしてほしいというUさんから希望がありました。その夜は手のかかる患者さんもいなかったのでこまめに見回りをすれば大丈夫かな?と自分の心が油断してしまいました。
「Uさん口の管は絶対に抜かないでくださいね!」
と約束して両上肢の抑制を解除しました。
ほんの2分か3分記録を書いていたところ人工呼吸器のアラームがけたたましくICUの中に鳴り響きました。
Uさんが自己抜管してしまい挿管チューブを右手に持っていたのです。
すぐにマスクで酸素投与を開始して当直医と他の同僚を呼び寄せました。救急カートを手繰り寄せすぐにでも再挿管の準備を整えました。当直医からは抑制を外したことについて激しく叱られました。
私が甘かったと深く反省をしましたが時は既に遅かったのです。朝方意識レベルが落ちてしまい呼吸抑制が発生してしまいましたのでその時に再挿管をして落ち着きました。
もし自己抜管、事故抜管になってしまったら
すぐに人を呼び集めましょう。それと同時にドクターコールもです。救急カートなどをベッドサイドに配置して酸素マスクで酸素投与をしたり呼吸抑制があるならばアンビュウマスクで換気してDrが来るのを待ちましょう。
大切なのは傍観者にならず落ち着いて行動しましょう。反省は後ででもできます。
落ち着いたらなぜこのようなことになってしまったのか?みんなと交えて意見交換してアセスメントして二度と同じことをしてはなりません。私もその自己抜管からだいぶ月日は過ぎましたが未だに忘れられません。
そして自己抜管、事故抜管は二度とされていません。