三月九日、サウジアラビアが原油の大規模増産を表明し、原油価格が25パーセントの暴落をしましたが、今回はこの件の背景や、現在の原油生産事情について説明をしていきたいと思います。
仁義なき原油戦争の一端をお見せできればなと思います。
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世界の原油生産事情
初めはこの点から書いていきます。今回のショック前の原油生産事情ですね。
まずは原油の世界シェアを見ていきましょう。外務省のホームページからのスクショです。
このように、原油の生産量は実はアメリカが世界一なのです。
「シェール革命」により従来の技術では発掘できなかった原油が取れるようになったのが大きな理由です。
これにより今までの主要生産国であったサウジやロシアに匹敵する原油を生産できるようになったのです。
現在の原油生産事情その2 アメリカが一位であるために必要な「減産」
先ほどの画像で見たように、原油生産は先ほどのトップスリーがぶっちぎりに強いのですが、実は一位のアメリカは、原油生産においてある重大な脆弱性を抱えています。
それは「シェールオイルは発掘コストが高い」という点です。
高度な技術を使って採掘するシェールオイルは、原価が従来の原油よりも高いです。
ですので、本来ならアメリカが一位、というのはありえない話なんですね。
それなのにアメリカが一位となっている理由は、2位3位のサウジ&ロシア(と中東の愉快な仲間たち)が「協調減産」を行っていたからです。
協調減産というのは、簡単に言えば「カルテル」ですね。
原油を安売りして価格競争をしたってお互い苦しいだけだから、生産量をお互い減らして高値で油を売ろうという事です。
これにより原油価格は安定しましたが、その一方で採算コストに見合う価格で原油を売れるようになったアメリカ(50ドルが採算ラインと言われています)が、シェールオイルを増産するようになりました。
そして気づけばアメリカが世界最大の産油国になったわけです。
つまり協調減産という他国の間隙を縫って、アメリカの原油生産が躍進を遂げたわけです。
コロナショックで原油安に。我慢の限界を迎えたサウジ
と、まあ、このような状況で長いこと世界の原油市場は動いていたわけですが、ついにこの生温い状態に終止符が打たれることになったわけです。
原因はコロナウイルスショックによる原油需要の低下でした。
減産してもアメリカはバカバカ生産するし、コロナのせいで価格も落ちるしでイライラマックスのロシアがまず、協調減産をもうやめたいと言い出しました。
そしてサウジがなんとこのタイミングでブチギレます。
ロシアがそう言うなら減産なんてもうやめて、うちもこれから大規模な増産を始めると発表したわけです。
つまり仁義なき価格競争に本気で参戦すると言い出したのです。
サウジショックにより原油市場は大混乱。アメリカで懸念されるのは。
このサウジアラビアの発表は原油市場に大きなショックを与えました。
原油先物の日足チャートですが、比較的安定していた原油価格が今回の件で大きく値崩れしたのがわかると思います。
特に3月9日は25パーセントの大暴落です。
そしてこれによりアメリカのシェールオイル業界は大きな危機が懸念されるようになりました。
サウジとロシアが増産を続ける限り採算コストが合わなくなるので操業が難しくなると思われるからです。
当然、アメリカのシェール関連の株は暴落し、それがアメリカ市場全体にも波及したわけです。
今後はどうなる?
ここまで現状を解説していきましたが、これからどうなるかについても考察してみましょう。
- 増産はサウジとロシアもつらい。
まずはこの点が重要です。今まで減産をしていたのは、決してアメリカの原油生産の手助けをしていたわけではなく、単に自分たちがそちらの方が都合が良かったからです。
サウジとロシアはアメリカのように多彩な経済基盤がなく、原油のような資源が頼みの綱ですから、それを価格競争で安売りするのは結構辛いものがあります。特にサウジは、はっきり言って原油ぐらいしか取り柄がないですからね。
彼らも油で稼いだお金で防衛予算を捻出したりする必要があります。
- アメリカに経済戦争で勝てるわけがない。
一方、アメリカの方は世界最強の経済大国ですから、少々シェールであれでも全体では大きなダメージは受けませんし、関連会社も当面は資金繰りや合併で凌いでいく選択肢も取れます。
実際、サウジは以前もシェール潰しで似たような安売り競争をしましたが、結局アメリカに致命的なダメージは与えられませんでした。いろいろな意味で懐の深さが違いすぎます。
ですので、今回の原油暴落は、「コロナショックに加えて」という面から見ると大きなものがありますが、単体としてはそうでもない、維持力に欠けるものだと思います。
もっとも、ロシアとサウジアラビアがコロナショックに便乗したみたいな見方もできるとは思います。今ならアメリカも困るだろと・・・
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